戦後の日本は敗戦による廃墟から立ち上がる際に、“戦争はもうこりごりだ、戦争など見たくない”という気持ちが強かった。それが日本人の心理に折り重なっていき、戦争や災厄を見たくない、考えたくないとなっていった。半世紀以上も続くと、多くの国民がワーストケースや戦争に蓋をしてしまったと言えるのではないだろうか。
東日本大震災のインパクトと「国家安全保障戦略」の策定
こうした他力本願的な日本人の心理に衝撃を与えたのが、2011年3月の東日本大震災であった。あの時、多くの日本人は、千年に一度という未曽有の巨大地震の前に呆然と立ちすくみ、その直後に発生した全電源喪失という原発施設であってはならない深刻な事態に直面した。放射性物質の拡散により東日本は分断されるのではないかと多くの人が危惧した。
あの頃から、日本人は、もしかしてワーストケースという事態は我々の身近なところにも潜んでいるのではないかと感じ始めたように思う。
震災から1年余の2012年12月の総選挙によって、第2次安倍政権が発足した。震災による国民の潜在的な危機意識も深層にある中、当時の安倍首相の強いイニシアティブにより、2013年に「国家安全保障戦略」が策定された。この閣議決定文書「国家安全保障戦略」は、戦後初めての政府としての「国家戦略」である。日本の「国益」を明確に規定したところに大きな意義がある。その国益を擁護するためにいかなる戦略を構築するかといった、普通の国が考えているアプローチを、日本として初めて採用したのである。
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