不正を黙認せず「忌憚のない意見」を言うべき理由 相手に信頼されるプロ人材の「インテグリティ」

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私たちはつい、「与えられた条件ではこれだけしかできません」と考えてしまいがちです。それは確かにそうなのですが、現実の世界の問題は、所与の条件を変えることができるのです。

たとえば、「この事業はうちの会社の祖業だから、不採算であってもやめるわけにいかない」と会長が大昔に言ったけれど、実は会長は今ではそれほどこだわっていない、というようなこともあるかもしれない。誰かを動かして、この連立不等式の条件のどこかを変える。それは意志があって、熱意のある人間にしかできないことです。

所与の条件には、いろいろなものがあります。「20年もこのやり方でやってきたのだから、このやり方がいちばんいい」と信じている人を説得しなければいけないかもしれない。新しい技術が出てきているのにそれについていけない、世の中が変わっているのに気づいていない場合もある。

それをどのように変えていくかを考えるのが、コンサルタントや、事業会社の中ならば経営企画の担当者の仕事の一部でもあります。

確かに簡単ではないけれど、もしできれば大きな成果につながる場合、「同じ目標に向かってがんばろう、一緒にその夢に挑んでみよう」と相手に思ってもらうには、やはり相手と自分が厚い信頼で結びついていなければならないでしょう。

クライアントとはプロヴォカティブに対峙する

コンサルタントは、プロヴォカティブに物事を考え、クライアントと対峙することが求められます。プロヴォカティブとは、辞書的には「挑発的な、刺激的な」という意味ですが、英語圏ではビジネスの改革、変革に欠かせないキーワードとなっています。プロヴォカティブに考えることができるか。言い換えれば、空気を読まず、他人とは違うことを面白がり、楽しむことができるか。

クライアントが気づいていない視点で物事を捉え、ブレークスルーとなる解決策を提示できるか。相手の立場や都合を忖度(そんたく)しすぎることなく、プロヴォカティブな提案や助言ができるか。それができてこそ、相手と本当に信頼し合い、共感できる関係になれるのだと思います。

ここまで、コンサルタントとして仕事をしてきた私自身の経験から述べてきましたが、事業会社で働くビジネスプロフェッショナルも、経営トップや上司の立場や都合を忖度しすぎることなく、プロヴォカティブに向き合うべきでしょう。

そうすることで、企業も、経営者や社員同士が互いに信頼し合い、不正を許さない、正しく、美しい意思決定ができる組織、インテグリティのある組織に進化できるのです。

岸田 雅裕 ラッセル・レイノルズ 日本代表

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きしだ まさひろ / Masahiro Kishida

1961年愛媛県松山市生まれ。東京大学経済学部経営学科卒業。ニューヨーク大学スターンスクールMBA。パルコ、ローランド・ベルガー、ブーズ・アレン・ハミルトン、カーニーなどを経て、2021年より現職。2014年カーニー日本代表に就任してからは、企業戦略、事業戦略、リーダーシップ開発、M&A、トランスフォーメーションの支援を多数行った。2021年からは、ラッセル・レイノルズ日本代表として「日本の経営者の質を高める仕事」に取り組んでいる。著書に『マーケティングマインドのみがき方』『コンサルティングの極意――論理や分析を超える「10の力」』(いずれも東洋経済新報社)などがある。

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