「太陽光発電2030年新築戸建て6割」が意味する事 住宅用太陽光発電をめぐる現状と今後を解説

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筆者がこの方針の中で注目した文言として、「2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し(中略)将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の1つとしてあらゆる手段を検討」がある。

「設置が合理的」というのは、高層の建物が多い都市中心部の住宅では、太陽光発電設置の十分な効果が見込めないケースがあることの裏返しだが、このあたりが住宅への太陽光発電普及の課題の1つである。

また、「太陽光発電設備の設置を促進するため」に、「ZEH・ZEB・LCCM住宅などの普及拡大に向け支援措置を継続・充実すること」という文言も注目される。ZEBはZEHのビル版のことを言う。

LCCMは「ライフ・サイクル・カーボン・マイナス」の略であり、住宅の建設時から居住時、解体までのトータルでCO2の収支をマイナスにできる住宅のことを言い、ZEHを上回る省エネルギー住宅の最上位に位置づけられるものだ。

新築住宅だけでなく住宅全体の改善が必要

要するに、単に太陽光発電の設置、省エネルギー性能だけを強化しても限界があるため、断熱性や耐久性、可変性などを含めた、より長く継続して住み続けられる建物であることが、これからの住まいに求められているということである。

太陽光発電に話を戻すと、蓄電池の普及や性能の向上、電力網のバランスを維持するための仕組み(太陽光発電の電力が増えすぎると通常電力の電力供給の体制にダメージを与える)の構築なども今後の課題となる。

なお、蓄電池についても、太陽光発電のようなスキームによりユーザーの負担をゼロにするサービス(もちろん太陽光発電も同時に設置する)も一部で始まっている。太陽光発電の普及にあたっては、発電電力を売電するのではなく自家消費することが理想で、このようなサービスがどれほど浸透するか注目される。

太陽光発電の電力をより有効に活用するためには蓄電池の普及が重要。写真は、蓄電池を搭載した電気自動車と住宅の間で電力をやりとりできるV2Hの様子。奥に見えるのは、そのためのパワコン(筆者撮影)

そして、この20年ほどに建てられてきた住宅の耐久性が向上していることを考えると、新築住宅より既存住宅で太陽光発電の設置と省エネルギー性の向上を図るほうが効率が良いと思われる。このほか、集合住宅(マンションやアパート)への設置拡大も必要だ。

カーボンニュートラルを達成するためには、太陽光発電の普及拡大のみならず、住宅を含む建築物全体の省エネルギー性向上や、これまでのような20~30年でスクラップ&ビルドすることをなくすなど、さまざまなハードルが横たわっていることをご理解いただければと考える。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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