隠蔽された「広島の原爆被害」伝えたのは黒人記者

放射線被害を正確に報じた、ほぼ唯一の米国人

アメリカの大手紙が政府発表を鵜呑みにする一方で、チャールズ・ローブ記者は「真実」を伝えるために奔走した(写真:Loeb family photo via The New York Times)

広島が原爆によって壊滅的被害を受けてから2か月後の1945年10月5日。アトランタ・デイリー・ワールド紙に「ローブ、原爆投下現場を顧みる」という見出しの記事が載った。

黒人新聞の世界では、ローブの名前を出せば、それだけで十分に読者の目を引くことができた。

チャールズ・ローブは黒人の従軍記者。彼が第2次世界大戦中に執筆した記事の数々は、全米黒人出版社協会を通じてアメリカ中の新聞に掲載されていた。上述の記事でローブは、致死性の放射線が飛び散ったことで、いかに広島の住民が病気になり、そして死んでいったかを書いている。ローブの視線は冷静かつ分析的なものではあったが、戦時中に隠蔽された重大な事実に光を当てていた。

黒人は日本への原爆投下を人種差別とみた

1面に掲載されたローブの記事は、アメリカの旧陸軍省、マンハッタン計画(原子爆弾開発計画)、ニューヨーク・タイムズとそのスター記者ウィリアム・ローレンスによる放射線に関する見解を否定するものだった。戦勝国アメリカと敗戦国・日本の間では放射線を巡って激しい論争が起こっていた。日本側は、広島と長崎で人々が急死したり慢性的な病にかかったりすることが増えたのは原爆による目に見えない放射線が原因だと主張した。アメリカ側はそうした嫌疑を断固として否認した。

しかし、科学と歴史はローブの正しさを裏付けていく。

ローブの報道は政府の公式見解に対する挑戦であるのと同時に、政府に対する黒人の懐疑心と呼応するものでもあったと学者たちは指摘する。実験的な兵器を日本に投下するという政府の決断は人種差別と関係していたのではないか——。そのような懸念を抱く黒人は多く、黒人の聖職者や活動家たちは折に触れて原爆の犠牲者に共感の気持ちを表していた。

「黒人は一般に流布されている説明を疑っていた」。歴史家のアレックス・ウェーラースタインは近著『Restricted Data: The History of Nuclear Secrecy in the United States(限定されたデータ アメリカ原子力秘史)』の執筆に関連した調査で、黒人に懐疑的な態度が広まっていたことを知った。

ローブの報道が、それにふさわしいだけの認知度を得ることはなかった。故郷クリーブランドでは市民運動のリーダーとして、そして全国的には黒人ジャーナリストの先駆けとしてたたえられたローブだが、核の時代の幕開けに原爆の隠された危険を暴いた業績は正当に評価されてこなかった。その見識は、つい最近まで歴史の闇に葬られていたのだ。

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