サントリーが美術や音楽に「お金をかける」深い訳 二代目社長の佐治敬三が語った文化事業への思い

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サントリーホールは1986年の開館で、2017年には30周年を機にリニューアルした。どちらも佐治敬三が始めたものだ。彼が言ったとおり、オーナー企業でかつ、志と夢のある人間でなければ美術や音楽に金をかけようとは思わないだろう。

彼は見栄で文化を理解していたわけではない。クラシック音楽が好きな人だった。私はサントリーホールに行くと、必ず彼に出会った。片隅の席でじっと演奏に聴き入っている姿を見た。館のロビーやラウンジで同社の社員に指示したり、怒ったりしていたこともあった。

サントリー美術館では本人に出会ったことはなかったが、会長室のデスクには美術館のカタログが全巻、置いてあった。

文化事業をやることは「会社のイメージを向上させるため」と建前では言っていた。けれど、本当のところは人生が仕事だけじゃ面白くないと思ったから、音楽や美術に金を使ったのだろう。それも大金を使った。

サントリー美術館には国宝を買い入れ、サントリーホールにはパイプオルガンを設置した。佐治は本物が好きだった。ウイスキーもビールも本物でなければならないのだから、美術も音楽も本物だけを愛した。

「人間は面白くなきゃいかん」

私にも「文化こそ本物でなければあかん」と語っている。そして、「人間は面白くなきゃいかん」とも言っていた。

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「いまマルチメディアとかの美術館もありますが、私にはつまらんですね。コンピューター映像とか、何とかリアリティーとか言ってますが、オリジナルの芸術でなく編集したものですから(注:当時はほとんどそういうものだった)。

いま、うちの会社は開高がおったころのようなシャープな面白さを追求する気風が衰えてますな。これは社会全体が悪しき官僚化に陥っているせいやと思う。

大企業になればなるほど優等生で、しかも官僚的なやつがエラくなっとる。うちでも若い人と話をすると優秀な人ほど考え方が官僚的や。話してもおもろない。受け答えはできるが、肝心の人間の面白さがないからあんまり仕事はできません。

つまり、人間が面白くないと酒は売れん、会社も儲からんということですな」

そう言って、わっはっはと哄笑(こうしょう)し、その後、小さな声で「おもろない人生はつまらんでしょ」と続けた。

野地 秩嘉 ノンフィクション作家

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のじ つねよし / Tsuneyoshi Noji

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。『キャンティ物語』(幻冬舎)、『サービスの達人たち』(新潮社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』(小学館)でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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