サントリーが美術や音楽に「お金をかける」深い訳 二代目社長の佐治敬三が語った文化事業への思い

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佐治が大切にしたクリエーターは開高一人ではない。山口瞳もむろんそうだ。そして、他にも大勢いる。彼が立派なのは仕事をしたクリエーターに対して、決して「出入り業者」の気持ちを抱かせることがなかった点だ。相手がどんな若造だったとしても、「先生」と敬い、応接した。こういうことができる経営者はまずいない。経営者だからと言ってやみくもに威張ることはなかった。

そして、今もサントリーは佐治の気風を受け継いでいる。以下はアートディレクターの長友啓典氏から聞いた話だ。長友氏はサントリーの仕事をいくつもやっていた。なかでも伊集院静氏とふたりで、成人の日、入社式の日の同社新聞広告を長く担当していたことは知られている。2017年に亡くなってしまったけれど、長友さんはため息をつきながら、こんなことを教えてくれた。

  • 「野地くん、サントリーの仕事をやらなあかんで」
  • 「どうしてですか」
  • 「あのな、この前、入院したときのことや。病室が決まって、ベッドに入った途端にサントリーの秘書がやって来て、『お見舞いです』と結構な額の見舞金を置いていくわけや。そんな会社、あそこだけやで。僕ら社員でも何でもないんやからな」
  • 「それはすごい。長友さん、僕らクリエーターは病気しないと損ですね」
  • クリエーターに接する態度が違う

1954年に佐治が開高を入社させ、コピーライターとして、小説家としての才能を開花させた。そして、外に出た開高を弟のようにかわいがった。もちろん、開高はサントリーの仕事には特別の熱意を持って体当たりした。クリエーターはギャラが多いほうがうれしい。しかし、ギャラだけではない。敬意を払ってくれるクライアントとの仕事ならば、たとえ火の中、水の中といった気持ちになる。

サントリーの広告宣伝が他社のそれよりも優れているのはクリエーターに接する態度が違うからだ。そして、それは佐治が開高健に対して始めたことなのである。

そのことをインタビューで指摘したら手を振って「そんなことはないよ」と言っていた。本心を悟られるのが嫌というタイプだった。

だから、聞いてみた。

「佐治会長、人生訓とか座右の銘はあるのですか」

無愛想な答えだった。

「僕はね、何ものかにとらわれるということが好かんのです。ポリシーとか座右の銘とかそんなものない。何をやるにしてもポリシーなんて考えたこともない。まったく行き当たりばったりの人生や」

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