サントリーが美術や音楽に「お金をかける」深い訳 二代目社長の佐治敬三が語った文化事業への思い

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ビールに進出し、一定の成功を収めたことは同社と社員の体質を強化した。以降、「やってみなはれ」の商品群が次々と誕生する。1993年にはゴマの栄養素を含む健康食品セサミンを発売。サントリーは今では健康食品業界のトップメーカーとなっている。

2004年には世界で初めて青いバラを誕生させた。発売は2009年からである。このふたつでもわかるように、サントリーの新事業は他社の追随ではない。参入するにはハードルの高い業界、もしくはまだ誰もがやったことのない業界を目指して、新商品を開発する。だからこそ、「やってみなはれ」という言葉がぴったりくる。

ビールのCMソングを自ら歌う

佐治敬三はビールの販売促進について、私にこう語った。

「社員の足腰を強くするために始めたビール事業だったが、私自身のためにもなった。いい年して、自らビールの売り込みやってますから。大阪商工会議所の会頭(1985~92)をやっとったんだが、会議に出席するのに胸にサントリービールと書いてあったワッペンを付けて出席したんですわ。ちょうど社内でビールのキャンペーンをやってたものですから。

すると『公的な機関で自社の宣伝をするとは何事か』と物議を醸しまして。まあ、それがやっと商工会議所の乾杯でサントリーも使ってもらえるようになりました。宴会でもパーティーでも、僕はうちの商品のCMソングを歌ってます。社長でも自分とこの会社のCMソングを歌えん人なんていっぱいおるでしょう。でも僕はおっちょこちょいですから、平気で歌ってます。だが、そのおっちょこちょいのところがいいんじゃないかと自分ではそう思うてます」

インタビューの際、話がCMソングになったら、「ちょっとやってみましょうか」と立ち上がった。おもむろにアメリカ西部のカウボーイが着けるようなベルトを取り出した。ベルトに革製のスリッパがはさんである。ベルトは特製で社長室に常備してある。

彼がラジカセのスイッチを押したら、60年代に流行ったテレビ映画『ローハイド』のテーマが流れ出した。彼はごにょごにょ歌ったかと思うと、カウボーイが馬に鞭を当てる効果音と合わせて、「バシーン」とスリッパで机を叩いた。

「ビールはサントリーでっせ」

そう言って笑いかけた。寡占のビール業界に挑むのは大変な苦労だったろう。自らスリッパを鳴らしながら、販売の先頭に立った。現在、同社のビールが先行した3社を侵食しつつあるのは彼の大きな決断の結果だ。

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