「対面作業でしか創造性は生まれない」という妄想 出社しないとイノベーションは生まれない?

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しかし、この問題を研究している人々は、オフィスで働くことが創造性や共同作業に不可欠であるという証拠はないと言う。しかも、イノベーションを妨げている可能性さえある。なぜなら、アメリカで働く人の多くが、決められた時間と場所で働かなければならない環境を居心地悪く思っているからだ。

不動産マーケットプレイスであるジロウの最高人事責任者であるダン・スポールディングはこう話す。「こうしたオフィス文化は、多くの人ではなく、少数の人が有利になるように設定されているため、長時間労働、燃え尽き症候群、代表性の欠如など、現代のオフィス環境で見られる多くの結果につながっている」。

「対面でしか協調できないという考えは、偏見だ。インサイダーグループに入っていなかったから、意見に耳を傾けてもらえなかったから、権力のある人たちが集まる場所に行かなかったから、という理由で、どれほどのクリエイティビティとイノベーションがオフィスから追い出されているのだろうか」

オフィスではない「交流の場」が必要

スポールディングなどは、オフィスを完全に再構築することを提案している。それは、日常の仕事はリモートで行いながら、人々がたまに会ったり、交流したりする場所だ。ジロウでは、ほぼすべての社員がリモートで仕事をするか、たまにしか出社しない。年に数回、ミーティング用の小さなオフィスにチームが集まる。

ハーバードビジネススクールで教鞭をとり、このテーマを研究しているイーサン・S・バーンスタインはこう話す。

「互いにぶつかり合う可能性のあるスペースに人々を配置すれば、会話をする可能性があるという議論には信憑性がある。しかし、その会話はイノベーションや創造性に役立つもので、組織が人々に話してほしいと思っていることに役立つものなのだろうか。それについては、ほとんど何のデータもない」

「こうしたことからも、ランダムなセレンディピティが生産的であるという考えは、現実よりもおとぎ話のようなものだと思われる」

1930年代にフランク・ロイド・ライトが設計したジョンソン・ワックスの本社ビルは、オフィスでの自発的な交流が創造的な思考を促進するという考えに基づいて造られたものだ。1990年代に入ると、シリコンバレーの企業が、スナックステーションや出張ヘアカットなどを提供し、即席の集まりを促進するようになった。また、週に40時間以上オフィスにいる人には、不均衡なほど多くの報酬が支払われるようにもなった。

しかし、バーンスタインは、現代的なオープンオフィスでは対面でのやり取りが70%減少することを発見した。従業員たちは自然発生的な会話はあまり仕事の役に立たないと判断し、ヘッドホンをつけてお互いを避けるようになったのだ。

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