映画の自由貫いた「パンケーキを毒見する」の狙い 「新聞記者」プロデューサーが総理題材の映画製作

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僕はよく言うんですが、Aから生まれたAダッシュがBになると、Bダッシュが生まれる。そしてBダッシュがCになると、そこからCダッシュが生まれる。そういう風にして、社会は変化し、発展していくんだと思うんです。もしおかしいと思う事があったら、これはおかしいでしょと提言をしていかなきゃいけないと思っています。

――河村プロデューサーは「ダッシュ」を目指すということなのでしょうか。

というよりも「ダッシュもあるよ」と提案するということですよね。例えばヤクザというのは社会からはみ出した人たちですよね。でもヤクザ映画というのは、今廃れているわけですよ。だからこそ、それを今の社会で描くと新しいのではないかと思い、作ったのが『ヤクザと家族』です。

僕がやっているのは、SFとかホラーとかと同じようなジャンル映画だと思っているんです。ヤクザ映画とか、政治映画といった、新たな視点のジャンル映画を提案することで、これまでのジャンル映画からはみ出していこうと思っているんです。だから新しく見えるんだと思います。わたしはそういう映画に興味がありますね。

多様性がある時代なら、わたしが目立つことはない

――そういうものに対する興味というのは、どこから来るのでしょうか。

そうあるべきだと思っている、ということですね。今のままだと、いい映画はなかなか作れないと思っているんです。やはり映画はお金を払って観るわけですから、やっぱりそこに新しい発見とか、新しい考えを持つことが必要だと思うんです。

しかし今、当たっている映画というのはどちらかというと、確認しに行くものだと思うんです。例えばテレビでやったドラマを映画化するとか、コミック原作の映画とかもそうですが、確認する映画って当たるんですよ。

河村光庸/かわむら みつのぶ 1949年生まれ。89年にカワムラオフィス、94年に青山出版社を設立。98年アーティストハウスを設立し数々のヒット書籍を手掛ける。一方で、映画出資にも参画し、後に映画配給会社アーティストフィルムを設立し会長に就任。2008年に映画配給会社スターサンズを設立。『牛の鈴音』(2008年)、『息もできない』(2008年)の買い付け・配給のほか、製作では『かぞくのくに』(2011年)、『二重生活』(2016年)、『あゝ、荒野』(2016年)、『愛しのアイリーン』(2018年)、『宮本から君へ』(2019年)、『MOTHER マザー』(2020年)、『ヤクザと家族 The Family』(2021年)など話題作を立て続けに製作、公開する。『新聞記者』(2019年)は、最優秀作品賞など6部門受賞はじめ各賞を総なめにした。最新プロデュース作は吉田恵輔監督作『空白』 (撮影:尾形文繁)

――そんな状況の中で政治やヤクザといったジャンルの映画を作るということは、けっこうなあつれきもあったのではないかと思います。特にここ10年ぐらいは、裁判もあったりといろいろと激動だったように思います。ご自身ではどう考えていますか。

やはり今の時代だから目立ってるんじゃないですか? もっと多様性がある時代なら、わたしが目立つということはないと思うんです。しかし今は社会が一元化しちゃっている。だから私がやっているようなことを皆さんにもやってほしいなと思っています。

とにかく私は表現をしたい。今の私にとってその表現の手段が映画であるということです。昔からずっとやってきた映画人の方たちから見たら、なんだかわけのわからないヤツが新しく出てきたなと思われていると思うんです。でもそんなふうに見られても僕は全然構わない。とにかく新しいものをやりたいですね。ちゃんと時代を切り拓いていけば、それが新しく見えるから。でもやっぱり多くの人に見てもらうことがまず前提だと思うんです。映画というのは多くの人に観てもらってナンボですから。だから『パンケーキ~』も、ぜひ多くの人に見てほしいという思いで作っています。

――河村プロデューサーの作品は、映画に込めたメッセージ性と、エンターテインメント性のバランスが絶妙だと思うのですが、その辺のバランスはどう考えているんですか。

私は権力者じゃないですからね。権力者がメッセージを前面に出すとプロパガンダになります。本当はメッセージを押し付けてもいいんでしょうが、だけどわたしはお客さんに映画を観てもらいたいから。大上段に構えるようなコピーだったり、映画のタイトルにするのは控えて、ここまでなら大丈夫かなというところでバランスをとるようにしています。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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