映画の自由貫いた「パンケーキを毒見する」の狙い 「新聞記者」プロデューサーが総理題材の映画製作

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――今回、菅首相を題材にしようと思ったのは?

今、一番問題であることをやるべきだと思ったからです。菅さんを通して、向こうに透けて見える官僚支配とかマスコミ支配とか。彼が言う自助、共助、公助。要するに競争原理によって格差を拡大する政策とか。もっと言うと、国税庁が酒を販売する業界団体に提供を続ける飲食店と取引をしないよう要請したり、インターネットのグルメサイトを通じて飲食店の感染防止対策について監視させたりとか。これは国を分断させることだし、相互監視社会を作ることですよ。それを民間にやらせようなんてひどい話ですよ。

選挙に行ってもらいたい

――この映画が公開される7月30日というのも、ちょうどオリンピックの真っ最中ということで。この時期にあえてぶつけたのかなとも思うのですが。

そのとおりです。もうひとつこのタイミングで公開するのはやはり選挙に行ってもらいたいからです。これを観て、いても立ってもいられなくなるというのが最大の狙いです。選挙があると、マスコミがみな静まりかえってしまうわけですが、はたしてこれでいいんでしょうかと。

これじゃ多くの迷っている人たちもどこに指針を求めていいかわからない。だから盛り上がらない。そうしたら政治に興味がなくなっちゃいますし、投票率も下がりますよ。投票率が低ければ、自民党と公明党は組織票が強いですから。そうした状況が政治の劣化につながっていると。それが積み重なっていくということは危機的な状況だと思うんです。

ニュース映像ではカットされてしまう、リアルな国会答弁に触れている ©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会

――河村プロデューサーはこれまで数々の映画の配給・製作・宣伝を手がけられてきましたが、特に『新聞記者』以降は、よりメッセージ性の強い作品を手がけようとする意志を感じるのですが。

私は長い間、海外の映画の買い付け、翻訳ということをやってきました。でもある時期から、自分で作った映画を宣伝して売っていきたいと思うようになりました。ちょうど『かぞくのくに』(2012年)あたりですね。北朝鮮への帰国事業についての問題は誰も扱わなくて、タブーとされていたんです。

(帰国事業がはじまった1950年代)当時は全マスコミがもろ手をあげて北朝鮮は天国であるというキャンペーンをやっていた。新しい土地でひと旗あげたいという夢を求めて、北朝鮮に渡ったが、その人たちは二度と帰ることはなかった。(同作のメガホンをとった)ヤン・ヨンヒ監督もそれを具体的に経験していますからね。そういう作品をやっていく中で、現代を切り取っていく作品を作りたいなと思うようになりました。

『あゝ、荒野』は、50年以上前に書かれた寺山修司の小説を映画化したものですが、あれも舞台を未来(制作時はオリンピック後だと想定されていた2021年)に変えて。どんどん孤独が進んで、孤立していく社会を描きました。そこから今の政治というものが透けて見えてくる。完全に政治が劣化している。もっというとマスコミもそうだし、われわれもまひしてしまっている。だからこそ、それはやらなきゃいけなかったと思うんです。

――スターサンズさんが手がける映画には、『宮本から君へ』や『ヤクザと家族』、それから9月に公開する『空白』などもそうですが、物語としての強度がある作品が多いように思うのですが。そういう題材をあえて選んでいるところはあるのでしょうか。

それはありますね。やはりインディペンデントの映画会社としてできることはやらないといけないと思っているんです。今の状態をそのまま肯定していくのでは、社会の発展は一切ないはずです。人間社会というのは、必ずそれに対するアンチテーゼというものがあって。それが時代とともに正当化されることで、また別のアンチテーゼが生まれてくる。

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