佐戸記者の父、守さんがA記者に電話で問いかけるシーンがある。
「そこに本人が現れてないということであれば、(NHKの)都庁クラブに都庁の局長なり次長なりから、問い合わせがあったのでは?」
監察医が作成した死体検案書によると、未和さんが「死亡したとき」は「7月24日頃」となっている。7月24日の何時頃というわけではない。彼女が7月24日午前3時に帰宅してから、7月25日21時半に発見されるまでの42時間半。その間の、どのあたりで息を引きとったか定かではないのだ。
24日に予定していた都庁幹部との約束を「すっぽかした」佐戸記者の異変に気付き、もし誰かが自宅に向かっていればーー。泥のように眠る彼女を揺り起こし、一命を取り留めることができたのではないか。
問いかける父に、A記者がはっきりした返事をすることはなかった。
「NHKが本当に守りたいのって、そこなの?」
2018年10月、父の守さんは、娘がA記者へ送ったメールのことについて調べるよう、NHKに依頼した。1年後、NHKの担当者は調査結果について両親にこう伝えた。
「Aの携帯に、未和さんからのメールが残っていないことがわかりました」
真相解明に及び腰のNHKに対して、佐戸記者の妹めぐみさんはこう話す。
「自分の会社の不祥事を社員が証言するのを許す会社はない。でも、NHKが本当に守りたいのって、そこなの? 『報道機関として、弱い人の目線で伝えるべきことを伝える』と言ってるのに、それを踏みにじるようなことをしていいんですか?」
これは、NHKを愛し、尽くした末に旅立った未和さんの声、そのものかもしれない。
この連載が始まる1週間前、筆者はNHKに次の3点について質問状を送付した。
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