フランス人が感じた日本の柔道が抱える「問題」 フランスでは稽古は楽しいが、日本ではきつい

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(写真:Csabagrap /PIXTA)

事故から12年たった今も、澤田佳子氏の息子は意識がほぼない。24歳になった澤田武蔵さん。「時々微笑んでいるんですよ」と澤田氏は言う。「指1本で『はい』、指2本で『いいえ』と言っています」。

2008年、当時11歳だった武蔵さんは、長野県松本市にある柔道教室の稽古中に指導者のA氏に脳を負傷させられた。武蔵さんの両親は地元の柔道協会が属する松本市とA氏を訴えた。民事訴訟は交渉で和解。さらに重要なことは、刑事手続においてもA氏が最終的に有罪だと認められたことである。

「私はA氏を罰したかったのではありません。彼が息子に与えた痛みを理解してほしかったのです」と、現在は青少年スポーツ安全推進協議会で会長を務める澤田氏は言う。一部の柔道家が彼女を支持する一方で、冷たい視線を浴びせる人もいた。武蔵さんの双子の兄弟は学校で疎まれるようになった。

「体罰」は海外でも知られる日本語に

「全国柔道事故被害者の会」小林恵子氏の息子もまた、柔道によって運命が変わってしまった1人だ。

2004年、14歳のときに一流柔道家として知られるB氏が顧問の柔道部に入ったが、じきにその暴力的な稽古に嫌気がさしていた。柔道部を辞めることを決めた息子は部活に出ないようになっていたが、あるときB氏につかまってしまったという。そして、7分間の「稽古」の後、彼は倒れた。B氏は同級生の前で彼を引きずって畳の脇に連れて行き、稽古を終わらせた。

約10分後、その場に居合わせた担任が救急車を要請し、病院に搬送された。医師から最悪の可能性もあると警告された両親は、緊急手術を行うことを承諾。一命はとりとめたものの、息子には重度の脳障害が残った。B氏は民事と刑事で訴えられた。民事では小林さん側が8900万円の損害賠償を勝ち取った。が、刑事は傷害罪で書類送検されたが不起訴となったため、検察審査会に不服申し立てをした。不起訴不当の結果が出て再捜査が行われたが、再度不起訴となった。

日本で行われている暴力的な稽古(あるいは体罰)は、日本の柔道の評判に悪影響を与えている。実際、「体罰」という言葉は、「過労死」や「オタク」に続き、世界でも使われるようになっているほどだ。体罰は日本だけのものではなく、柔道だけのものでもない。社会学者のアーロン・ミラー氏によると、体罰はアメリカを含む多くの国で今でも用いられている。しかし、柔道に関して言えば、日本は統計的にほかのどの国よりも子どもの犠牲者が多い。

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