フランス人が感じた日本の柔道が抱える「問題」 フランスでは稽古は楽しいが、日本ではきつい

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問題を起こした指導者が、指導を続けている例は少なくない。2012年12月、女子柔道の日本代表選手15人が強化合宿中に園田隆二監督(当時)らから平手や竹刀での殴打などの暴力やパワハラを受けたとして、日本オリンピック委員会(JOC)に告発。

園田氏はこれを受けて辞職しているが、現在は大手企業の女子柔道チームのトレーナーを務めている。「数年前、イベントで被害者の選手と園田が同じ畳の上にいるのを見ました。私はとてもショックを受けました」と、ある柔道関係者は話す。

柔道をやりたい子が減っている

誰かが間違いを起こした場合、社会は通常、その人が再び同じ過ちを犯さないようにするものだ。子どもに対する性犯罪者は子どもに近づくことを禁止されているし、事故を起こした運転手は運転できなくなる。しかし、なぜか日本の柔道の指導者の中には、子どもを傷つけても柔道を教え続けられる者がいる。

フランス柔道連盟の登録会員数は60万人と、人口当たり日本の6倍もいる柔道大国で、会員の7割は15歳未満だが、死亡を含む重度の事故の記録はほとんどない。「フランスと違って、日本には生徒への暴力をきちんとチェックするシステムがない」と、澤田氏は嘆く。

日本とフランスの両方で柔道の稽古を受けたサノ・スギヤマ・アツシさんはこう話す。「フランスでは柔道の稽古は楽しいものです。日本では恐ろしく重苦しいです。楽しさがありません。私は体罰には耐えられません」。実際に、2009年から2019年までの10年間で、柔道連盟に登録している高校生以下の子どもの数は3分の1も減っている。

長年にわたって柔道などスポーツによる事故を減らそうと活動を続けている小林氏や澤田氏のおかげで状況は変わりつつあるが、世界から見ても日本のスポーツの在り方は歪んでいる事実はもっと議論されるべきだろう。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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