フランス人が感じた日本の柔道が抱える「問題」 フランスでは稽古は楽しいが、日本ではきつい
こうした中、溝口氏は今日の柔道の指導にはまだ欠陥があると警告している。1つは、指導者の経験不足であり、自分たちが学んだ欠陥のある稽古をそのまま実践してしまうことである。「受け身を習得しないまま、相手を投げ返す『大外刈り』の稽古をさせている指導者がいます。それが原因で事故が多発しているのです。致命傷になることもあります」と溝口氏は言う。澤田氏も「指導者もわかってはいても、教わったことを変えるのは難しい」と話す。
2013年から日本で柔道の稽古における暴力について取り組んできた柔道連盟のフランス人会員であるピエール・フラマン氏も同意見だ。「私は柔道の稽古における暴力についての委員会の一員でした。教師が暴力的な方法で育てられていたので、彼らは委員会にこう質問します。『どこからが暴力になりますか?』と」。
さらに、フラマン氏はこう続ける。
「柔道の事故が比較的多い原因は、稽古の多さにあるのではないでしょうか。日本の柔道選手は夏を含めて毎日2時間の稽古をするのに対し、フランスの柔道選手は週に90分の稽古をし、長い夏休みを取ります。今の時代に受け入れられないのは、子どもたちの稽古時間が長いことと、生徒を傷つける教師の説明責任の欠如です」
親自体が指導者の体罰に「寛容」
一方、ブルース氏によると、フランスで指導者資格を取るには一定の期間がかかる。「フランスでは1955年から柔道の指導者はライセンスを取得しなければなりません。柔道の指導者になるためには、フランスでは70時間の訓練が必要です」。
また、澤田氏は、日本では親自身が子どもに手を上げることがあるなど、全体的に体罰に寛容で、部活や教室などで指導者が暴力を振るうことも受け入れてしまいがちなのが問題と見ている。
事故の被害にあった子どもの人生がその後大きく変わってしまったのに対して、複数の関係者は過去の死亡事故に関与した指導者の多くは、故意、あるいは過失を問わず、柔道連盟の制裁を受けていないと問題視している。
小林氏の息子の顧問だったB氏はいまだに柔道を教えている。筆者はB氏が教えている道場への取材を試みたが、返信はなかった。小林氏によると、今日に至るまでB氏からの謝罪はないという。澤田氏は、A氏がまだ柔道を教えているのではないか、と想像すると恐ろしいと語る。
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