「オリンピック開催」に突き進ませる6つの数字 中止の損害も、メンツにこだわるリスクも膨大
トレーニングに身も心もささげなければならない期間は本来の予定からさらに12カ月間延び、結婚や大学進学のタイミングは先送りされ、子どもを持つかどうかの計画にさえ影響が及んだ選手もいる。したがって、世界中の競技者が全体として開催を望むのは当然といえる。
「本来なら、人生の次の章はもう始まっていた」。クリーブランド出身のボクサー、デランテ・ジョンソン(22)は、2015年に死去した元コーチと交わした「オリンピック出場」の約束を果たすため、プロ転向予定を1年先延ばししたという。
オリンピック・パラリンピックのためだけに生きてきたアスリートにとっては、そこで競うことがすべて。特別な場で戦うことでスポンサーがつくチャンスが生まれるし、メダルを獲得できれば報奨金も出る。引退後のキャリアにも道が開ける。
世界の目の前で競技できること自体が貴重な経験となる選手も少なくない。「その興奮を持つことがようやく許されて、舞い上がっている」と、カリフォルニア州ニューポートビーチ出身の水球選手ケリー・ギルクリスト(29)は言う。「努力の結果をついに披露することができる」
日本の首相は怖くて中止の決断できない?
これは日本の首相、菅義偉の支持率だが、自らの政治生命がオリンピック頼みとなってしまった菅には、怖くて中止が決断できないのかもしれない。「中止すれば、彼は政治的に身動きが取れなくなる」。そう話すのは、テンプル大学日本校(東京)でアジア研究学科のディレクターを務めるジェフ・キングストンだ。キングストンによれば、国政選挙が秋に迫る中、菅は五輪の成功が支持率回復の切り札になると考えているフシがある。
五輪を成功裏かつ安全に終わらせることができれば、菅政権にとっては政治的に大きな得点となる。むろん、失敗すれば公衆衛生の大惨事となって、多くの命が犠牲となり、日本経済が大打撃を被る危険が伴う。そうなれば、菅という政治家の個人的なメンツがつぶれるどころの損害では、とてもすまされない。
キングストンが言う。「(東京大会で感染が拡大して変異が加速すれば)ゴジラ変異株が生まれることにもなりかねない。東京は、そんな形で人々の記憶に残ることを望んでいるのだろうか」
=敬称略=
(執筆:Kevin Draper記者、Andrew Keh記者、Tariq Panja記者、Motoko Rich記者)
(C)2021 The New York Times News Services
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