寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな

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――ニクソン大統領による電撃訪中(1972年)も日本の頭越しでした。

ニクソン訪中は日本にとって戦後もっとも大きなトラウマになっている。頭越しにアメリカと中国が握手し合ったときの日本の当惑たるや、まるで世界史から取り残されたような焦燥感が支配していた。

ニクソン訪中以降、日本の意識の底には、米中対立の激化への期待が根強くある、といえる。「アメリカと中国が対立していてくれればアメリカは日本側に向いてくれる」という深層心理があるのだ。私は日米経済摩擦がもっとも激しかった1980年代にワシントンに駐在していたので、アメリカ人の日本人観は痛いほどわかる。アメリカに対する過剰依存と過剰期待の態度をとる日本と比べれば、中国との関係のほうがわかりやすい力学で動くと捉えられている。

真の経済安全保障の議論を

――デジタル化が社会インフラとして進んでいくと、あらゆる情報機器を通じて私たちの個人情報が中国に抜き取られていくという指摘があります。

中国がデータリズムの時代を掌握しようとしているのは事実だろう。だが、もし日本人が本当の情報感受性を持ち合わせているのであれば、中国に対する危機感と同じ問題意識において「アメリカから情報を抜き取られることはよいのか?」と、冷静に考えなくてはならない。

寺島実郎(てらしま・じつろう)/1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。アメリカ・三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、多摩大学学長。国土交通省・国土審議会計画推進部会委員、経済産業省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員等、国の審議会委員も多数を務める。

例えば、一部の海外メディアが「対中国を念頭に日本が『ファイブ・アイズ』へ参加し、6番目の締結国となる可能性がある」と報じたように、日本国内には、アメリカを中心とした機密情報共有の枠組みへの参加が認められるよう積極的に動く人たちがいる。このような国家間の情報共有ネットワークに参画することの本質的な意味を理解する必要があると思う。

――アメリカの力を借りずに中国と真に向き合えるでしょうか。

アメリカへの過剰依存から脱却せよと私が言い続けるのは、それが中国と正対するための条件だからだ。日本にはアメリカと一体化することで中国にプレッシャーを与えられる、強いメッセージを送れるという思い込みがある。しかし私に言わせれば、まったく逆だ。

中国やロシアの有識者と議論をしていると、彼らは日本をアメリカのプロテクトレイト(保護領)としか見ていないことに気づく。実際、アメリカの文献にもそう記されることがある。自力で国を築いてきた中国やロシアが、アメリカの保護領とされる日本と1対1で正対し、真剣な議論をするだろうか。

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