寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな

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――どういう姿勢が必要でしょうか。

どんなに不条理なことがあってもアメリカについていくしかないというのが日本人の固定観念になってしまっている。

かつて外交評論家の松本重治が「日米関係は米中関係だ」と、本質を突く指摘をした。日米関係は中国というファクターに絶えず掻き回されてきたという意味だ。

第2次世界大戦において、日本はアメリカに敗北したと総括しがちだが、米中の連携に敗れたという側面も押さえておかなくてはならない。ここでヘンリー・ルース(1898〜1967年)というアメリカの出版人、雑誌界の大物だった人物を紹介したい。

彼の父親はキリスト教の宣教師として中国で布教活動をしていたため、14歳まで中国で過ごした。ルースは1922年に『タイム社』を設立し、その後は「チャイナ・ロビー」として、日中戦争を率いた中国国民党の指導者・蒋介石や妻の宋美齢を支持するようなメディアキャンペーンを展開し、アメリカ世論を「中国支持」へと誘導した。

もし蒋介石が毛沢東に敗れていなかったら?

ところが第2次世界大戦が終結すると、蒋介石は共産党の毛沢東に敗れてしまう。自分たちが支持していた蒋介石が台湾に追放されたことから、ルースは台湾を支持する形で大陸中国と対峙するポジションへと立ち位置を移す。そのうえで、かつて「敵」としていた日本を中国共産党の防波堤とするために、アメリカが援助していくことが必要だと説いた。

ルースが死去する1967年まで、アメリカの対東アジア政策は彼の影響を強く受けて展開された、といえる。

このような歴史的な背景をも踏まえたとき、もし蒋介石が毛沢東に敗れずに本土の中国を掌握していたら日本の戦後復興は20年も30年も遅れただろうということだ。中国本土との連携が途切れていなければ、アメリカが日本の戦後復興を援助する必要性などないからだ。

ヘンリー・ルースに象徴されるように、アメリカの政策というのは国益にかなうかどうかで右にも左にもいく。日本が脅威であるときには中国と手を結び、中国を抑えたいというときには日本をうまく利用する。

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