寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな

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――日本は中国と正対できるでしょうか。

世界GDPに占める日本の比重の低下は著しい。1994年、世界GDPの実に17.9%を日本が占めていたが、今どうなっているか。去年は6.0%にまで落ちた。異様な勢いで日本の埋没が進んでいる。

悲願だった小型ジェット旅客機(MRJ)の国産化プロジェクトは挫折し、コロナ禍において国産ワクチンの開発も大きく出遅れている。一方、中国はそのどちらも一歩進んでいる。

日本の埋没している現状に健全な危機感を抱きつつ、私は今チャンスだとも思っている。中国が強権化し、安全保障の議論をしなければならないこの状況は、日本がどういう国であろうとするのかを日本人自身が真剣に考えるには、またとない機会だからだ。

そのうえで、真の経済安全保障についても議論を深めたい。真っ先に議論しなければならないのは「食と農」だ。戦後日本は、「食と農」を犠牲にして、工業生産力モデルで経済復興を果たしたといえる。その結果、食料自給率はカロリーベースで37%という、欧米諸国に比べても驚くほど低い水準に陥っている。

さらにコロナによってマスクも医療用手袋も防護服も海外に依存している現実を目の当たりにした。国民の安全を担保するためには何が必要なのか、あらためて経済安全保障という観点から議論されるべきだ。

真の意味の経済安全保障を日本はリードせよ

経済安保に関わるルール形成についても、大いに議論してもらいたい。アメリカのGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)や中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)といった巨大IT関連企業による情報独占の問題をどう制御していくか。肥大化するマネーゲームをコントロールするため金融取引税をはじめとした国際的な連携体制をどう構築していくか。資本主義の歪みを正し、健全に発展させていくための議論こそ真の意味での経済安全保障であり、ここでこそ日本はリーダーシップを発揮してほしい。

国民の安全・安心のための産業基盤づくりの第一歩として、私が率いる一般財団法人日本総合研究所は日本医師会等と連携する形で、「医療・防災産業創生協議会」を設立した。コロナのような感染症や自然災害に対応できる体制を国家として築いていくために医療と防災に関する産業を興していこうという構想だ。国会でもこの構想を支持する超党派議員連盟が結成され、7月にも発足する。経済安全保障とは異なる話題だと思うかもしれないが、食も含めた医療・防災こそ経済安全保障につながるものだと思う。

経済安全保障の論議は奥が深い。単純な「中国封じ込め」のための経済安保論へと、話を歪めてはいけない。国民の生活をいかに守っていくか、そんな真の経済安保論議が必要だ。

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野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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