写真②は専業主婦であるCindyさん(仮名)の当時小学校2年生の息子のスケジュールだ。学校から帰宅後に自宅で昼食を取り、その後、月:水泳、火:ピアノ、水:英語、木:中国語、金:そろばんが入っている。習い事により始まる時間が異なるので、その合間に宿題をする。
Cindyさんには年長の次男もいて、弟もほぼ同様のスケジュールの詰まり具合だが、兄と一緒に受けるものもあれば時間帯がずれているものもある。そのため、車で送迎をする母親は、兄弟それぞれの時間に合わせて文字通り分刻みの行動をしている。
Cindyさんは「うちの子にリラックスタイムはないわね…・・・習い事の合間に宿題をさせていて、うーん、宿題が終われば、リラックスタイム」と取って付けたように書き込んでいた。土曜はテコンドーのみで、日曜は家族で出かけるなどフリータイムにしているという。
もちろん、もっとリラックスした生活を送る親子もいる。コロナが流行する前は、私は公共住宅の合間に設置されているプライグラウンド(公園)スペースで自分の子どもたちを遊ばせていたが、近所の子どもが遊ぶ中に小学生もいたし、習い事はゼロで自宅にゆっくりいたり、親が共働きの場合は祖父母の家でのんびりしているという家庭もある。
しかし、インタビューをしていくと、小学校低学年から平日毎日1~2種類、あるいは週末に複数の習い事があるというケースは決して珍しくない。
これは日本についても同じで、私は以前、東洋経済オンラインで習い事熱について書いたことがある。ただし、日本では主に専業主婦から、親子の時間を持て余していて「体力を使ってもらう」ために習い事に行かせるといった語りも時に聞かれるが、シンガポール人からはあまり聞いたことがない。
前回までに書いてきたように、学力競争も残りつつ、習い事もグレード化する……という中で、シンガポールでは親子は、より様々な活動に追い立てられているように見える。
かつてはなかった「新しいストレス」
この忙しいスケジュールの何が問題だろうか。1つは、子どものストレスである。
今30~40代のシンガポール人に子ども時代のことを聞くと、たびたび出てくる話が「いとこたちと祖母の家で宿題をして、終わるまでテレビを見てはいけないし、外に行ってはいけなかった」といったものだ。つまり、多くの時間を自宅などで過ごし、勉強に対する監督は厳しかったが、宿題さえ終われば自由時間も多かった面もある。
多くの場合、祖母は方言しか話せないなどもあり、子どもに寄り添って勉強を教えてくれるような存在ではない。ただし宿題をしているかどうかなどは、時にムチをもって監視していたという。このような体罰も含む教育を経験してきた女性は母親になったときに「自分の子どもには、自分が育ったようなやり方で勉強をさせたくない」と言い切るケースも少なくない。
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