「土日に5つの習い事」母子が多忙に陥るカラクリ 「ストレス」と「階層の再生産」という大問題

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写真②の専業主婦Cindyさんは子どもが生まれてからまもなくして仕事を辞めていたが、自分の時間は「朝、子どもを送り出してから13時ごろまでのほんの数時間」。この間に、家事をして子どもの帰宅後の昼食を用意するという生活に、「どこに私の働く時間が!?そんな短い時間で雇ってくれるところないでしょ」と語る。

送迎を祖父母やメイドさんにやってもらう選択肢はないのか。近場への送迎であればそのような家庭ももちろんがあるが、夫の収入に余裕がある専業主婦では「車で移動しているので、運転ができる必要がある」「子ども2人の送迎はあっち行って1人降ろして、その間にこっち行って……と複雑で私ですらヘトヘトになるのに」と、その”業務”の難しさを挙げる人も多い。

テレビを見せる時間はないと語っていたSherryさんも、家族の自営業を手伝っていて、共働きだが、午後に仕事ができるのは「子どもが習い事に行っている間の細切れの時間か、子どもが寝てから」。しかし、子どもの習い事をやめたいとは思っていない。むしろ「仕事をしなくてよければもっと子どもに時間がさけるのに」とつぶやく。

日本とは異なり“共働き前提社会”に見えるシンガポールで、母親たちが主婦になっていくきっかけについては次回以降に書くが、子どもたちの忙しい日常に対応させることが時に母親の仕事へのモチベーションとトレードオフになっている。

コロナ禍で問い直したい

金銭的に余裕がある層による、「子どものことを第一に考えた」はずの結果の、多忙なスケジュール。これによって私たちは何を犠牲にしているのだろうか。

友達と放課後のんびり遊ぶ、きょうだいと喧嘩をしながら力加減を学んでいく、家で暇すぎて暇すぎて仕方なく自分で遊びを考えたり本を読み始めたりする……といった以上に、敷き詰められ、お膳立てされた活動をさせることで、本当に何かが得られているのだろうか。

コロナ禍によりそれまで同様の活動ができなくなったいま、この方向で進んでいっていいのか、私たち自身が今一度、問い直す時かもしれない。

次回以降は、この忙しさの中で、シンガポールの家庭では夫婦の間でどのような役割分担がされており、母親たちが仕事との両立をどのように実現しているのか、あるいは断念しているのかについて分析していく。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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