AIで「もうひとりの自分」遺して死ぬ「生」への執念 話題書「ネオ・ヒューマン」が描く一歩先の未来

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人間が読み取れないところも見つけ出して再現できるのが、AIの最大の能力とも言えます。こうなると、場合によっては、自分の死後も、AIが仕事をしつづけるという未来もありうるだろうと思います。

ただ、AIは誰かの真似はできますが、その本人がいない世界から、その人を作り出すことはできません。

マイケル・ジャクソンのいない世界からは、世界的大スターは生み出せないし、村上春樹さんのような小説は書けても、村上春樹さんが進化して、まったく新しい地平を切り拓いたという小説を書くことはできない。本人しかできないことはどうしてもあるのです。

亡くなった人のAIデータをどう扱うか

Netflixに『ブラック・ミラー』というドラマシリーズがあります。アプリを使って、死んだ彼氏のチャットボットを再現し、毎日コミュニケーションをとっていたら、そのアプリが進化して、電話できるようになり、やがて、彼そっくりのアンドロイドが段ボール箱に入って届くのです。

ところが、そのアンドロイドの彼と一緒に過ごすうちに、彼女の中にはどんどん違和感が出てきます。「昔のあなたはもっと落ち込んでいることだってあったのに、どうしてそんなにいつも明るいの?」と。

すると、アンドロイドは答えます。「それは、僕のパーソナリティがSNSから構築されているからだよ」。SNSには明るい自分しか出していなかったわけですね。

ここには、死んだ人のデータをどう扱うかという難しい問題もあります。AIには「自分は自分だ」という自己意識は存在しません。あくまでも模擬パーソナリティでしかない。そこは、『ネオ・ヒューマン』の最大の論点でもあると思います。

周りから見れば、死なずにいてほしいと思う。長年連れ添った配偶者が死んでも、その模造品がいて話してくれたら嬉しいですよね。子どもを亡くした親なども、そうでしょう。

しかし、それと、自分の死後に自分のパーソナリティを残したいかどうかは別問題です。どの時代の自分を残したいか、といった問題もあるでしょう。

今の時代は、生まれてからほぼすべてのデータがネット上にある時代です。2000年代生まれの人はSNSもスマホもある。AIでコピーを作るにあたって、情報をどうデザインし、どの範囲でパーソナリティを構成するのか。AIのなかでは、50歳になってからも中二病だった自分を認めてあげることもできるんですね。

情報のセルフコントロール権の議論ともつながります。国が情報を管理すれば、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』のようになってしまう。今のように、プラットフォームに吸い上げられるのではなく、情報バンクを使って、自分で一元化して管理できるほうがいいという意見もあります。僕は、お墓の永代使用権のような仕組みがあればいいなと思いますけれどね。

いまのデータ時代、パーソナリティを再構成する要素は、分散して無限に広がっています。自分という個はいったいどこに存在するのか? ピーターの考えた未来を本格的に実現するためにも、分散したパーソナリティを一元化することが必要だという話になってゆくのではないでしょうか。

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