AIで「もうひとりの自分」遺して死ぬ「生」への執念 話題書「ネオ・ヒューマン」が描く一歩先の未来
もちろん、故人が実際にそこにいるわけではありません。しかし、コミュニケーションしている側からすれば、相手が生きていようが死んでいようがあまり関係ないと言えるかもしれません。これは実はとても哲学的な命題です。
「中国語の部屋」という思考実験があります。密閉された部屋のなかに、英語しか読めない白人がいます。そこに、小さな穴から中国語だけの手紙を差し入れます。中にいる白人は、その手紙の意味はわかりませんが、マニュアルに従って、書かれている中国語に対応する漢字の返答文を作り、部屋の外へと返す。これを続けていると、外からは、部屋の中にいるのは中国人だというふうにしか感じられなくなるのです。
つまり、相手が人間性を持っていなくても、適切なコミュニケーションさえ行われていれば、そこに人間がいるように感じてしまうというわけですね。
「レプリカ」はテキストボットですが、やがて音声も可能になるでしょう。いずれは動画もできるでしょうし、ディープフェイクの技術を応用すれば、その人がそこにいて話しているように作ることも可能でしょう。
『ネオ・ヒューマン』では、気管切開する前に、ピーターが長時間かけて音声を録音する場面がありますが、そのデータがあれば「自分の声」を合成できるわけです。さらに進めば、360度立体のARにもなります。
人間の目の解像度は8~16Kと言われていますが、今のAR技術ではまだそれよりも映像の解像度は低い。そのため、映像を見ても「これは本物じゃない」とわかりますが、今後はさらにリアルに見えるようになるかもしれません。
そうなると、室内に、コミュニケーションのとれる死んだ人の姿が現れる。その人が死んでいるのか生きているのか、わからなくなるかもしれませんね。
死後の自分が仕事をする未来
2019年に、NHKが美空ひばりの歌唱をAIで再現したことが話題になりました。
歌うという行為は、特徴を抽出するのが難しいのですが、NHKのAIは、美空ひばりの歌唱を分析して、少し音程がずれる部分や、二重音階が出ている部分なども再現しました。すると、歌声を聞いた人々が、涙を流して喜んだわけです。
作曲においても、AIを使って「バッハのような曲」「マイケル・ジャクソンのような曲」など、特徴を抽出すれば簡単に作れてしまいます。文学もそうです。今はまだそこまで技術が進んでいませんが、作家の文体の特徴や、文章の運びなどの特徴を抽出すれば、「村上春樹のような文章」を作ることはできるかもしれません。
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