●産業界は大学の教育を問わず、大学人は高校までの教育に無関心
どんな若者が入社しているのだろう? 彼らの特徴は大学の卒業式を見れば一目瞭然だ。どこの大学でも親が出席する。卒業生数の2倍程度が出席するので、大学は会場の確保に工夫を凝らし、全学が一度ではなく複数日に分散して卒業式を行う。学生は親離れしておらず、親は子離れしていない。思春期以降の人の成長とは親離れすることだから、親と子の密接な関係は精神年齢の未熟さを意味している。ある1部上場企業の2007年入社式のことだ。新入社員が遅刻して入社式会場に入ってきた。議事を進めていた社員が遅刻した新入社員に「遅刻した理由を言いなさい」と言った。そうすると、その新入社員は立ったまま青ざめて失神してしまった。意識を取り戻した新入社員に「どうしたんだ」と聞くと、「小さいころから人前で怒られたことがなく、頭が真っ白になって、気がついたら医務室に寝ていました」と答えたという。確かに素直である。人事担当者はこんな素直な新人に当惑している。
常識も通じない。女性新入社員との会話。「第2次大戦で日本が戦った国は?」。「えーっと、えーっと、たぶんアメリカだと思います」「じゃあ日本が同盟していた国は?」「えーっと? わからないな? どこだろう? あっ、わかりました。中国と同盟していたんでしょう」。これが作り話だと思うなら、自分の職場で新人に質問をしてみればいい。
こんな調査もある。東京大学教育学部長の金子元久教授(当時)が中心になって、全国5万人の大学生を対象に勉強や読書について調べた。その結果、1日に1時間も勉強しない学生、1カ月の読書量が1冊以下の学生が約6割もいた。
大学生と言っても立地、偏差値、学部特性はさまざまだ。理系は文系と比較にならないくらいに絞られている。バイトに行かないのではなく、時間に余裕がなくて行けない。しかし都会立地の低~中偏差値校、文系であれば、大学4年間でほとんど勉強していない。アルバイトでマニュアルトークを覚えたくらいだろう。
教官の声を聞いてみよう。某大手通信グループのマーケティング部長を務めていた友人は、都内の大学で経営学部ビジネス学科教授に転身した。「何を教えるのか?」と問うと、「中学生並みにあるかどうかはっきりしない能力を、高校生並みに上げるのが教育目標」と答えていた。
立場が変われば意見は変わるのが普通だが、若者の未熟さ、学力低下に関しては、大学も企業も意見が一致している。事態は深刻なのだ。
こんな野放図な人材劣化現象が起きた背景には、社会が教育に対して無関心だったからではないだろうか。産業界は大学を人材供給源として見てきたが、その質について問うことはなかった。大学人も高校までの教育カリキュラムに対して発言してこなかった。
次回は諸悪の根源のように語られる「ゆとり教育」について概観してみよう。来年度から理数系の教科書の内容が大幅増に変わるようだが、それは「これから」のことだ。「これまで」の日本人の基礎学力を形成したのは「ゆとり教育」。40代の人は影響を受けていないが、30代は少し影響されており、20代はすっぽりとゆとり教育カリキュラムにはまっている。したがって学生の質を論ずる若い人事担当の基礎学力にも疑問がある。
佃 光博(つくだ・みつひろ)
早稲田大学文学部卒。新聞社、出版社勤務を経て、1981年、(株)文化放送ブレーンに入社。技術系採用メディア「ELAN」創刊、編集長。84年、(株)ピー・イー・シー・インタラクティブ設立。87年、学生援護会より技術系採用メディア「μα(ミューアルファ)」創刊、編集長。89年、学生援護会より転職情報誌『DODA(デューダ)』のネーミング、創刊を手掛ける。多くの採用ツール、ホームページ制作を手掛け、特に理系メディアを得意とする。2010年より、「採用プロ.com」を運営するHRプロ嘱託研究員を兼務。
早稲田大学文学部卒。新聞社、出版社勤務を経て、1981年、(株)文化放送ブレーンに入社。技術系採用メディア「ELAN」創刊、編集長。84年、(株)ピー・イー・シー・インタラクティブ設立。87年、学生援護会より技術系採用メディア「μα(ミューアルファ)」創刊、編集長。89年、学生援護会より転職情報誌『DODA(デューダ)』のネーミング、創刊を手掛ける。多くの採用ツール、ホームページ制作を手掛け、特に理系メディアを得意とする。2010年より、「採用プロ.com」を運営するHRプロ嘱託研究員を兼務。
ブックマーク
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
トピックボードAD
有料会員限定記事
キャリア・教育の人気記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら