偽物ハラルが蔓延する「観光立国」の瀬戸際 ムスリム誘客の本気度が試されている

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ゆえに帰着した結論は、「(ムスリムの考えとわれわれの考えとの)違いをどんどん学んで、正確な情報を発信することに尽きる」(丸尾専門官)というものだ。そのうえで、よく理解もせずに、形だけを整えようとするのがいちばん危険だと警告する。

たとえば、ムスリムの礼拝は1日に数回必要という理解は進んでいると思う。だが、お祈りの前に手足を清めなければならないことは、意外に知られていない。このため、礼拝所だけを完備しても、足を洗える場所を確保しなければ、かえってムスリムに不便をかけることになる。洗面台で足を洗うことにでもなれば辺りが水浸し、ムスリムを迎える側は辟易、ということにもなりかねない。

そもそも国、地域、宗派だけでなく、個人によってもハラルの基準は変わる。旅行中はある程度は許されると、豚肉を食べ、アルコールを飲む人もいる。逆に、戒律を厳格に守り、日本の飲食店では何も口にしない人もいる。何を食べ、何を食べないかは、あくまで個人の裁量に委ねられる。ゆえに、その判断の根拠となる情報を発信すればよいのだ。

「すぐに世界から認めてもらえることはないかもしれないが、日本はイスラム国家ではないのに、ちゃんと誠実に、これだけのことをやってくれていると伝わっていけばいいと思う」(丸尾専門官)

政府が尻込みする政教分離の壁

だが、ハラルビジネスがカネになると見て、ハラルマーク発行団体も“雨後のタケノコ”のように誕生している。その中には、明らかに日本国内のブームに便乗して設立したとみられる団体も多い。

政府は政教分離が原則なので、どこどこの認証団体だったら安心など、個別の団体をオーソライズすることはできない。もとより宗教がからむ問題でもあり、規制はかけられるはずもない。そうこうするうちに、ハラルビジネスに群がる業者は増えていく。

その一方で、観光庁はムスリムの専門家ではないので、正確な情報発信を行うには、どこかのムスリム団体や協会に頼らざるをえない。実際、観光庁や日本政府観光局(JNTO)が後援するセミナーや講演がしばしば開催されている。

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