50歳で「田舎に移住」1年後に気づいた3つのこと 銀座の職場を捨て三重の寒村に移り住んだ本音

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だが、移住者として、聞いていたものと少し違う。田舎に来て、軽トラを買うことになり、地元で親しくなった人に相談したところ、「君は、しがらみがないから自由にあちこち見積もりを出してもらったらいいよ。俺たちは、長年の関係もあって、そうはいかないからね」という答えが返ってきた。

田舎では、人間的なつながりで何事も成り立っている。モノを買うにしても安いか、高いかという判断よりも、人間関係が重要な判断材料になったりする。その点、移住者は、親戚関係や長年の間に構築された人間関係に縛られる必要性はない。物事をシンプルに決められるメリットがある。田舎生活はしがらみが大変というのは、移住者にはあまり当てはまらない気がする。

自宅の修理を頼んだある職人がつぶやいた印象的な言葉もあった。「一度は都会で生活してみたかったなあ」。田舎で暮らす人たちは、家を継がなければならなかったり、都会に出る機会を逸してしまったりして、不承不承、田舎での生活を続けている人も多い。同じことをするにしても、自ら選択したものと、それしか選択できなかったものとでは、受け取る印象は違うだろう。

田舎生活では、都会生活を捨てて田舎に隠遁したというのではなく、広い土地がある田舎に新天地を求めた開拓者精神を維持することも、田舎暮らしを生き生きと送る秘訣になるのではないか。

筆者の場合、銀座という大都会のビルで働き、酸いも甘いも味わってきた。国際ニュースの現場で働くのはやりがいがあったし、同僚との銀座での飲み会は楽しかった。でも、夜勤や2時間近い通勤の労苦、人事への不満など、サラリーマン人生はいいことばかりではない。

そんな中でも、憧れていた海外勤務や地方勤務を経験し、あちこちで暮らす体験を与えられた。世界各地で見た理想的と感じた暮らし、例えば、豊かな自然環境の中にある自宅の菜園で、食材を収穫して調理するという幸せは、田舎という環境なら思う存分に実現できる。あるゆるものを体験した上で、望んで選択した生活は、多少の不満があったとしても、我慢できるものになるだろう。

生きるとはシンプルだった

田舎での生活は、畑仕事や古民家のDIY的な改修、薪ストーブや五右衛門風呂の薪の確保が中心のシンプルなもの。菜園からの採りたて野菜は美味しいので、料理の味付けも塩胡椒や醤油だけ。それに自宅で飼育している烏骨鶏の卵。朝食には納豆。朝起きて畑仕事をして、薪割りをして、気づくと夕食の時間になっているというのもしばしば。

今は、自宅近くに畑を借りて、サルやハクビシン、アナグマよけの獣害防止の檻の設置作業を進めており、これに多くの時間を取られている。その前には、冬の寒さが厳しかったので、断熱効果のアップを狙った自宅の改修や薪ストーブの設置作業に追われていた。早朝から体を動かし、五右衛門風呂に入って夕食を済ませ、夜8時には床に入ることも。

自宅には新聞もテレビもないので、インターネットを見ない限り、必要のない情報は入ってこない。田舎生活での関心事は、農作業や屋外の作業に大切な天気予報やシカの侵入やサルの襲撃など獣害の動向。どんな野菜を植えつけなければならないかといった農事暦にまつわるあれこれ。

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