「ステージ4のがん」看護師が選んだ新しい生き方 職場と家族を巻き込み「仕事が趣味」を貫く

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従来の抗がん剤は、正常な細胞とがん細胞両方にダメージを与えるので
つらい副作用が出ることも多い。

一方の分子標的薬も、広い意味では抗がん剤の一つ。だが、がん細胞の増殖などをおこなう特定の分子だけを狙い撃ちにする。そのために高い治
療効果が期待でき、正常な細胞へのダメージも少ない。吐き気などの副作用も、従来の抗がん剤と比べて少ないと言われる。

松本さんは薬でがん細胞の増殖を抑えられたおかげで、切除手術もせずに済んでいる。2018年3月には、前任者の退職によって認知症疾患治療病棟の課長にも昇進。さらに翌年春、法人全体の教育担当課長に抜擢された。

がん経験者同士がつながれる活動を展開

その後、松本さんは新しい取り組みをスタートする。がん患者同士が集まって語り合えるサロンを相次いで2つ発足させたのだ。

まずは2020年1月に、通院先である鳥取大学医学部附属病院のがん相談支援センターの協力の下、40代の子育て世代が集まれる「さくらカフェ」を作った。

患者サロン「あさがお」第1回の模様(2020年7月)右端の医師は、養和病院の副院長(写真:松本さん提供)

同年7月には、勤務先の医療法人の支援を受けて、患者サロン「あさがお」も発足。こちらは就労から退職世代まで40、50代が中心だ。

きっかけは、松本さんががん患者の団体であるキャンサーペアレンツ(CP)の大阪でのオフ会に参加したこと。故・西口洋平代表らと出会い、子どもを持つ同病者と実際につながることで、松本さん自身が元気と勇気をもらえたからだ。

「前者は、子育て世代の孤立感の解消と、その悩みなどをお母さん同士で情報交換できれば、と考えました。後者は『あさがお通信』を月1回発行中です。会員から寄稿記事や宝物の写真を送ってもらい、がんになっても自分を表現できる居場所になればと思っています」(松本さん)

どちらも今はオンラインで活動中だが、彼女はがん経験のある医療従事者の自分だからこそできることだと考えている。

松本さんは身近にいる医療者から親身な支援を受けられた。主治医は勤務先の医師ではないが、以前からの顔なじみ。ステージ4でも継続勤務させてもらえる幸運にも恵まれた。その恩返しでもある。

一方、がん患者には仕事と治療の両立を図ろうとしても職場の理解を得られなかったり、身近に医療従事者がいなくて、不安になったりしている人たちがいることを知っているためだ。

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