肺腺がんのステージ4で、胸膜播種(肺をふくむ胸膜にがんが広がっている状態)、胸水も溜まっている――。
松本さんがそう診断されたのは2017年6月のことだ。肺がんは4つの種類に大別でき、肺腺がんはその1つ。喫煙の有無に関係なく、若い女性も発症するのが特徴。松本さんも病名への戸惑いを振り返る。
「煙草も吸ったことがない私が肺がん?って、当初は半信半疑でしたね。でも、病気の重大さはじゅうぶんに認識していました。一緒に診断結果を聞いてくれた助産師の長女も、言葉には出しませんでしたが、たぶん『肺腺がんのステージ4=死』と連想していたと思います」
告知を受けた後、娘たちと話したこと
告知を受けたのは、助産師である長女が勤務する鳥取大学医学部附属病院だった。その後、2人でランチを食べた。
「長女から『家のこと、わかるようにしといてよ』と、淡々と言われたのをよく覚えています。おかげで私にもまだ小学生の次女がいるし、お金や家のことなど、自分が動けるうちにやるべきことをやらないと、娘たちを路頭に迷わせることになる、という気持ちに切り替わりました」
急がねばという気持ちになったのは、自分に残された時間がどれだけあるのか、わからなかったせいだ。長女は仕事柄もあるのか、告知後に感情的になることは一切なかった。
その数日後、松本さんは自宅で長女とこんな会話を交わした。
「お母さん、どうしたい?」
「いやぁ、最期は、病院は嫌だ、家がいい」
「でも酸素吸入器が必要になると、火の近くでは使えないから、この部屋がいいよね、ベッドはこっち向きだね」
「そうね。ベッドは借りられるから、買わなくていいよ」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら