塩野:そういうリードユーザーはどこで捕獲してきたらいいのですか。
山本:いろんな調査パネルなどで、ライフスタイルや価値観や消費体験などを網羅的に調べたものがありますよね。それで見つけられるはずです。
たしか大日本印刷さんがそういうことをしていて、それで見事に半歩先にはやるものを当てられています。つまり調査当時ははやっていなかったけれど、数カ月後にすごくブレークする芸能人や芸人を当てられたらしいのです。その話を聞いたときに、「ああ、いいパネルを持ってるな、キーパーソン・マーケティングを実践しているな」と思いました。そういう特殊な能力を持っているのは、パネルの中でも数%だけですけどね。
あとはアメリカにクラウトスコアというものがありますよね。ソーシャルメディア上の影響力を表す指標です。
あれは単にフォロワーが多いとか、つぶやきが多いということではなくて、ほかの人からのコメントやメンションなど、何らかのアクションを引き出せる人の点数が高くなるんですよ。クラウトスコアを使うとその人が100点満点で何点かわかりますから、そこそこ影響力が高い人をカテゴリー別に識別抽出することができます。アメリカではスマホを空港のラウンジの入り口で見せると、クラウトスコアの高い人は無料で入れたりする。
塩野:それはクラウト差別ですね(笑)。
山本:そうですね(笑)。だけどそれだけのネットワークを持っていて、影響力の高いキーパーソンだから、そういうサービスが受けられるわけです。
塩野:それ、そのうちグーグルグラスをかけただけで「あの人は何点」って可視化されそう、完全にスカウターですね。そういう面白い研究をしているんですね。
論文を読んでみてほしい
山本:そうなんですよ。実はこの本には裏テーマがありまして、それは「実務と学術をブリッジする」ということです。インターネットや口コミを利用したマーケティングについての論文はたくさんあるのに、実務に携わる人には読まれていない。ソーシャルメディア関連の安易なハウツー本はたくさんあるけれど、データに裏打ちされているという点では論文に勝るものはない。
この本は10年分の研究を一般向けに直した本なのです。だからベースは全部論文なんですよ。英語で書かれた論文を読むよりは、100倍楽に読めると思います。そして私としては、これをきっかけに論文を読んでみようと思ってもらえると、もっとうれしい。学術的なものを敬遠して、やわらかいものばかり食べていると、あごが退化しておかゆしか食べられなくなってしまいますからね。
塩野:しかもスプーンで食べさせてくれ、みたいな人が増えていて、困ったものです。私は最近、「どんなに固いものでもかみ砕いてやろう」と思えるかどうかは、本人の飢餓感の問題だと思うようになりました。というのも、私はシンガポールで採用を担当しているのですが、応募してくる人たちのハングリーさときたら、日本人とはケタ違い。私もおかゆを食べてもらおうと努力してきましたが、最近はもう「ハングリーじゃない人に無理やりおかゆを食べさせている暇はない」と思うようになってきました。
でも逆に言うと、20代の起業家を見ていると、周りに草食動物しかいないから楽ですよ。ライオンが1頭しかいなければ、シマウマ食べ放題。起業においてもそうだし、モテ方においてもそうでしょう。だから若い人が欲を持つことは重要だと思います。そのためには、「お前は勉強しちゃダメだ」とあえて飢餓状態にするくらいがいいのかもしれない。
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