アートが社会の「分断」の壁を壊す為に必要な視点 「ねばならない」足かせを外し、人を動かす

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国谷:EUは自分たちが新しい世界のルールメイキングをしたいと思っている。ビジョンを作りルールメイキングをしていくことによって競争力につなげるという明確な戦略、ポストコロナの時代に競争力を高めようっていう戦略があるんですね。

箭内:先ほどから「分断」という言葉が出ていますけど、分断が非常に今進んでいますよね。僕と国谷さんは今、直接会えてないし、分断の壁は以前より高くなっている。この分断が進んだ中で、例えばアメリカでは「Black Lives Matter」運動が起きたり、一方で人種の問題が起きたりしています。

これが進んでいくと、変わろうとする人たちと、変わりたくない人たちと、どっちでもいいけどまあ変わらないやっていう人たちの間にまた新しく分断ができるような気がしていて。この分断をどう解いていくか、壁をどう壊していくかも、僕ら、アートも含めて、ものすごく大きな課題に今なり始めているなと感じます。

いろんなものがいい意味で壊れ始めている

国谷:感染症に関しても2000年代に入ってから、SARSもMARSもエボラ出血熱もジカ熱も鳥インフルエンザも、4~5年おきに世界中に蔓延するような危機が瀬戸際で留まっています。

感染症の蔓延が起きる危険があるというリスクは前から言われていたけれども、そのリスクに耳を傾けずに今回こういうことになった。気候危機についても科学的なデータや科学者の警告はずーっと前から出ています。新型コロナパンデミックから学ばなければならないことは、きちっとこういうリスクに対して向き合って対策をとり、乗り越えていくことだと思うんです。

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今、箭内さんがおっしゃったように、変えたいっていう人と、もっと目の前のことが大事で変えなくていいっていう人たちの分断が起きています。でも社会が変わる時は、何パーセントかの人たちがビジョンを持って変えたいと思うようになれば、急速に変化が起きると私は思っています。その何パーセントの人たちをどう作っていくか。

箭内:瀬戸際っていう言葉が合うかどうかわからないですけれど、本当に数年前から大きな過渡期が始まっていて、いろんなものがいい意味で壊れ始めていることを感じます。そして今、最後の頑丈だったものが壊れるか壊れないかにきていて、希望的観測をすれば、その先にきっと何か新しいことが始まるんじゃないかと思っています。確かに国谷さんが言うように、ティッピングポイントをどう作るか、どう人々が力を合わせるかってことですよね。

(第3回に続く、6月20日配信予定)

国谷 裕子 キャスター

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くにや ひろこ / Hiroko Kuniya

ニュースキャスター。米国ブラウン大学卒業。1993年4月から2016年3月まで23年間にわたり、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務める。2011年、日本記者クラブ賞受賞。

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箭内 道彦 東京藝術大学 美術学部デザイン科教授

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やない みちひこ / Michihiko Yanai

1964年生まれ。福島県郡山市出身。90年に東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業、博報堂に入社。2003年に独立し「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、資生堂「uno」、サントリー「ほろよい」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。10年にロックバンド「猪苗代湖ズ」を結成。15年には福島県クリエイティブディレクターに着任、監督映画『ブラフマン』公開、「渋谷のラジオ」を設立。16年より現職。著書に『871569』(講談社)、『広告ロックンローラーズ』(宣伝会議)など。

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