アートが社会の「分断」の壁を壊す為に必要な視点 「ねばならない」足かせを外し、人を動かす
箭内:僕自身もそうですけど。広告の手法では、「多様でなければならない」じゃなくて「多様だったとしたらどんなに素敵なことなんだろう」っていうことを見せる。買わなければいけないじゃなくて、買ったらこういう気持ちになったり、こういう素敵なことが始まったりしますよっていう入り口を作るのが広告なんです。世の中が、「ねばならない」っていう重い足かせや、重荷を背負って、悲壮感の中で新しい時代を作っていこうっていうのは、気高くはあるけど難しい。
多様ってものに触れてみたらこんなに面白かったっていうことが、もっともっとあればいいと思う。逆に言うと、良くないこと、例えば、SNSの中の誹謗だったり中傷だったり、それも「それを止めなさい」っていう広告じゃなくて、止めたらどんないいことが起きるかっていうことをちゃんと約束しなくちゃいけないなって思いますね。広告の頑張りどころだけど、なかなかそういうところの場面には広告的な考え方はまだ入ってきていないですよね。
国谷:新聞を見ても、SDGsがらみの広告が溢れています。自分の企業イメージを高めたい大手企業がSDGsに向けて一生懸命やっていますという広告をたくさん出している。でも企業の宣伝にはなるけど本当に人を動かすっていうところまではいっていない。人ってどうしたら動くんだろうって、ずっと思っています。箭内さんを見ているとご自身がものすごく動いていらっしゃる。モチベーションがすごい。箭内さんみたいな人がたくさん出てくればいいんですけど。
アフターコロナで何か変わるか
箭内:現在このSDGsの状況下で、新型コロナウイルスがやってきて、今いろんな人たちが「アフターコロナ」という言葉を使って、この後の社会やこの後の世界のことを論じ合っています。どうなってほしいという希望・願望も含めてだと思うんですけど、なんか変わらないような気もしますし、変わるような気もする。国谷さんはどう見ていますか?
国谷:変わらないと大変なことになるのですが、おっしゃられたように、喉元を過ぎればで、変わらないまま進んでいく可能性も高い。日本って、なかなか世界の空気、世界で起きていることに対する感度が弱い。
ニューヨークのクオモ知事が使った「Build Back Better」という言葉、BBBが盛んに言われています。「前より良くしよう」と。でも日本では、どういうビジョンを共有して何に向かっていくのか、何がベターなのかという議論がない。サステイナブル=持続可能な方向に変革するためにはビジョンの共有が必要です。よほど企業や私たちが危機感を持っていなければ、変わらない。