中学受験「全落ち」しかけた野球少年の怒涛の結末 単身赴任を選びながらも挑んだ親子の長い戦い

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野球を続けていくために、親子は思い切った決断をすることに--(写真:Fast&Slow / PIXTA)

「場所によってはリトルリーグのチームがないところもあります。今のうちに定住先を決めて、野球を思う存分やらせてあげたいと、考えるようになりました。」

候補に上がったのは母親である明美さん(仮名)の実家も近い、東京都西部のエリア。ここなら、全国大会常連の名門チームに加わることもできる。全国大会で悔し涙を流した後の4年生の10月、家族は父親を残し、東京での生活をスタートさせることにした。

野球を続けることを目的に塾へ

野球を続ける一方で、両親が考えはじめたのが中学受験だった。東京の場合、中高一貫校は選ぶほどある。中学で入ってしまえば、高校受験がないぶん、中高の6年間は好きな野球に没頭することもできる。

両親からすると、これは魅力的なことに見えた。決めるのはあくまでも孝太郎くん本人だが、受験をしたいと言い出した時のことを考えて、塾に通わせはじめることにした。

「やはり、早稲田実業などに憧れまして、早稲田アカデミーに入りました」。通塾は週に2回、リトルリーグの練習は土日が中心だったため、被ることはなかったのだが、両立はかなり難しかった。

所属する野球チームはレベルも高く、レギュラーを目指すなら、自主練習は欠かせなかった。素振りとシャドーピッチングを毎日それぞれ100回することを決め、練習に打ち込んだ。

頑張る息子を支えたのは、両親の連携だった。明美さんが自主練の様子を撮影し、単身赴任中の知己さんに送信、動画を見た知己さんが孝太郎くんにアドバイスを続けていた。これに加えて月に2回は野球の塾にも通っていた。孝太郎くんはレギュラー入りを果たし、試合でも活躍するようになっていく。

一方、塾での成績はというと、なかなか振るわない状況だった。「早稲田アカデミーは宿題も多くて、野球との両立が難しい感じでした」(知己さん)。成績も上がることなく、宿題もこなせない。ただ塾に通っているというだけの状態が続いた。

そんな折、孝太郎くんは不運にも怪我に見舞われてしまう。遠征先で突然肘に痛みを覚えたが、孝太郎くんは試合を途中で退場したくなかったのか、全くそのことを口にしなかった。「肘が痛い…」試合後にそう話す孝太郎くんを病院に連れて行くと、なんと骨折していた。

小学生の骨はまだ成長の途上のため、強い力が加わると、軟骨が剥がれることがあるというが、孝太郎くんのケースはまさにその状態だった。野球ができなくなったうえ、塾の勉強も思うようにはかどらない。孝太郎くんの気持ちも態度も、日に日に投げやりな状態になったという。

「このままじゃ、大会に間に合わない。勉強も分からない。もういい。全部止める!」

孝太郎くんはそう言い、勉強も、野球の練習もやらなくなってしまった。

そんな状態で迎えた冬休み。地方にある知己さんの実家で、久しぶりに家族が揃う嬉しい時のはずだったが、穏やかな年末とはいかなかった。孝太郎くんの態度を見かねた知己さんが、檄を飛ばしたのだ。

「なにをだらだらしているんだ!」

しかし、父親からいくら言われても、孝太郎くんの態度は変わらなかった。ピリピリした雰囲気に口を挟んだのは祖母だった。

「孝太郎がこんな状態になるなんて、少し考えたほうがいい。追い込みすぎなんじゃない?」

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