一橋大卒、30年引きこもる56歳男性の心の叫び 「お母さんは死んでやるからね」に怯えた日々
中高年のひきこもり(母からの虐待)池井多さん(56)のケース
今年3月、内閣府は40~64歳までの中高年の「ひきこもり」が推計61.3万人と発表した。これは6カ月以上連続して「自室からほとんど出ない」「自室からは出るが、家から出ない」「近所のコンビニには出かける」「趣味の用事のときだけ外出する」という“広義のひきこもり群”の数だ。15~39歳までのひきこもり54.1万人を上回り、大きな話題となっている。
今回お会いしたぼそっと池井多さんは56歳。仲間内では「ぼそっとさん」と呼ばれているが、ここでは池井多さんと記す。中肉中背、落ち着いた風情を漂わせ、低めの声でソフトに、だが論理的で知的な話し方をする彼は、国立の一橋大学を卒業している。断続的に30年にわたるひきこもりを経験、「基本的に今もひきこもりです」と微笑(ほほえ)む。
母親と、母に強制された父からの虐待によって、うつと複雑性PTSDを発症したことが原因だ。大人になるにつれて家族問題がこじれ、この20年近く両親と、8歳違いの弟とは没交渉、現在は体調と相談しながらひきこもり関連イベントのファシリテーターをしたり、英語やフランス語など語学の才能を活かしてネット上で欧米のひきこもりの人へのインタビューを行い、発信している。
「死んでやるから」という母の脅し
「根っこは母からの虐待ですね。心身ともにですが、大人になって振り返ると、身体的なものより精神的なもののほうが悪影響を及ぼしている。いつも同じ構造の虐待が起こっていました。私が“スパゲティの惨劇”と呼んでいる虐待があるんです」
4歳から学校へ上がるくらいまでの話だ。夕方になると、母親が「何を食べたい?」と聞いてくる。だが、天真爛漫(てんしんらんまん)に答えられるようには育てられていない。もし食べたいものを言ったら全否定されるとわかっているから、「何でもいい」と答える。すると母は「何でもいいじゃわからない」と不機嫌になる。