「昔を懐かしむ人」を批判してはいけない納得理由 ノスタルジア(郷愁)は、実は脳の健康に効く
そういうわけで、セディキデスらの発見は、大方の人の予想に反していた。ノスタルジアは有益だったのだ。現在では、ノスタルジアを頻繁に感じる人は、そうでない人より心が健康なことがわかっている。その理由も判明した。それも驚くべきことに、行動レベルにおいてだけでなく、細胞レベルや分子レベルで判明したのだ。それをこれから見ていこう。
科学界で関心が高まるノスタルジア
ノスタルジアのどこにそんな力があり、それは脳にどう働きかけるのだろう。また、それは老後の生活設計とどんな関係があるのだろう。
ノスタルジアは科学界で関心が高まりつつあるテーマの1つだ。それはおそらく、わたしたち研究者も皆、年をとっていくからだろう。
ノスタルジアは、過去の自分と現在の自分をつなぐ自己連続性を高める(専門的に言えば、自伝的記憶と現在の経験が統合され、「自己概念の時間的安定性」がもたらされる)。
以下は、ノスタルジアに関して研究者が発見した一連の現象だ。あなたがノスタルジアを感じる。すると、あなたの自己連続性が高まる。すると、脳にとって良いことが起きるのだ。
具体的には、どんな良いことが起きるのだろう? 以下で述べよう。
社会的つながりとは、自分が何らかの集団(部族、会員制リゾートクラブ、グレイテスト・ジェネレーション[第2次世界大戦に従軍した兵士や犠牲者など]等々)に属し、他のメンバーから受け入れられているという主観的感覚である。
この難しい言葉の意味は「人間としての可能性を最大限に発揮することで得られる充足感」だ。少々わかりにくいが、エウダイモニックな経験は、精神医学的な効果をもたらす「エウダイモニア」を感じれば感じるほど、気分障害になりにくい。ニンニクが吸血鬼を寄せつけないように、エウダイモニックな幸福はうつ病を寄せつけない。
ノスタルジアは「甘く、ほろ苦い」とよく言われるが、研究の結果は、わたしたちは苦いノスタルジアより甘いノスタルジアをはるかに多く感じることを示している。幸せな記憶が優先される傾向はきわめて強く、脳スキャンで見ることもできる。
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