「昔を懐かしむ人」を批判してはいけない納得理由 ノスタルジア(郷愁)は、実は脳の健康に効く

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以上3つの効果は、ごく日常的な場面で表れる。たとえば、ノスタルジアを感じがちな人は、死をあまり恐れない。また、長年のパートナーは、共通の記憶を懐かしむ時に心が通いあう。

さらに、自分の「ノスタルジア・ゾーン」で充実した時間を過ごした後は、見知らぬ人に優しくなり、とりわけ社会的背景が異なる人に対して寛容になる。感覚情報さえノスタルジアの影響を受ける。寒い部屋でノスタルジアを経験すると、室温は変わらないのに、体が温まったように感じる。

ノスタルジアはドーパミンの生成を促す

非侵襲的脳画像診断によって、ノスタルジアの魔力が、なぜ、どのように、作用するのかが明かされてきた。

思い出を懐かしむと、脳の中ではいくつかの記憶システムが作動し始める。そこには海馬が含まれるが、それはごく当たり前で、海馬は脳の記憶システムの大半に関わっているからだ。

ノスタルジアで活性化するのは記憶システムだけではない。人がノスタルジアを感じている間、中脳の黒質や腹側被蓋野が活性化することを、研究者らは突き止めた。どちらの領域も報酬に関与しており、その感覚を引き起こすのに、神経伝達物質ドーパミンを使っている。

この刺激パターンには2つの興味深い意味がある。まず、ノスタルジアを感じると脳が報酬をくれるので、それを繰り返したくなる。次に、ノスタルジアはドーパミンの生成を促す。ドーパミンは報酬だけでなく学習や運動機能にも関わっているが、年をとるとその生成が減る。

高齢者の脳は総じてドーパミンが足りないので、ノスタルジアがドーパミンの生成を促すというのは、大変良い知らせである。ご存じのとおり、ドーパミンは脳と体のどちらにとってもきわめて有益な神経伝達物質だ。

結論:大いに昔を懐かしもう。

ジョン・メディナ 分子発生生物学者

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John Medina

分子発生生物学者であり、ワシントン大学医学部生体工学科で教鞭をとっている。人間の脳の発達や精神障害の遺伝学的研究を専門とする。これまでに、ワシントン大学工学部の年間最優秀教授、メリル・ダウ医学生涯教育最優秀教授、バイオエンジニアリング学生協会年間最優秀教授(二度受賞)に選ばれている。著書に『脳の力を100%活用する ブレイン・ルール』(NHK出版)など。

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