「昔を懐かしむ人」を批判してはいけない納得理由 ノスタルジア(郷愁)は、実は脳の健康に効く

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1964年、後にケンタッキー州知事になる実業家に200万ドルで会社を売却し、残りの人生を口うるさいスポークスパーソンとして生きた。そして90歳で亡くなった。彼は生涯現役を貫いた。KFCの店舗でくるくる回っているプラスチック製のチキンバーレルを目にするたびに、わたしは彼のことを思い出す。

このカーネル・サンダースの物語には、銃撃戦はごめんだが長生きはしたいと思う人にとって有益な、秘伝とは言いがたい要素が少なくとも2つ含まれる。

1つは職業である。職業は、人に生きる目的と規則正しい生活、そして引退した人々より25パーセント多い社会的絆をもたらす。2つ目の要素は、人を元気づける郷愁(ノスタルジア)だ。

ノスタルジアの認知上のプラス効果

広告のプロやポップカルチャーの旗手や歴史家のほとんどは、ノスタルジアには計り知れない威力があることを知っている。そんな彼らでも、ノスタルジアに認知上のメリットがあることを脳科学が明らかにしたことを知ると、驚くだろう。

主にイギリスで活躍している社会心理学者のコンスタンティン・セディキデスとティム・ウィルドシャットは、バラ色の記憶が現在の色あせた暮らしに良い影響を及ぼすことを示した。

セディキデスとウィルドシャットによるノスタルジアの定義は、1998年版『オクスフォード英語辞典』による定義と同じで、「過去への感傷的なあこがれや郷愁」だ。しかしその評価の仕方は、イギリスの大半の人々とは異なる。

彼らは、ノスタルジアの度合いを測定するために、「サウサンプトン・ノスタルジア・スケール」と呼ばれる心理テストと、研究ツールの「イベント回想タスク」を開発した。このタスクは、被験者に最も懐かしく思える出来事やそれに伴う感情について記述させるもので、人為的にノスタルジアを引き起こすことができる。

ノスタルジアは往々にして、認知的に不安定で危険な状態と見なされる。それは、回想に耽ってばかりいると、過去から抜け出せなくなるからだ(実のところ、「ノスタルジア」の原義は、「ホームシック」だ。中世において、兵士の心身の問題は、帰郷を異常なまでに切望するのが原因だと考えられていたことによる)。

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