――日本では「ホームレス=中高年の男性」というイメージがあります。一般的には男性よりも女性のほうが貧困とされているのに、なぜ、女性ホームレスは少ないのでしょうか。
彼女たちは危険を避けるために物陰に隠れるように暮らしているので、なかなか目にとまりません。厚労省の「ホームレスの実態に関する全国調査」の2021年版によれば、全国の野宿者3824人のうち女性は197人。わずか5.2%です。
「ホームレス」の定義によるところも大きいと思います。日本でホームレスというと、一般的に路上生活をする人を指します。しかし、もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです。
女性ホームレスが少ない背景には、男性が稼ぎ主で女性は家事を主に行うことを前提にした、日本の労働や社会保障のあり方も問題として横たわっています。こうした結果、多くの女性は不安定な低賃金労働に従事している。低賃金だと1人で生きていくことが難しいので、貧困を恐れて、夫や親のいる家から出られないわけです。
また、雇用保険や年金といった保険から排除されていることも多く、単身者の場合、失業すると途端にホームレス状態になるリスクがある。
他方、男性より利用できる福祉的な選択肢は多い。そうしたことから、路上に出る一歩手前で踏みとどまっているケースが多く、数字上では女性ホームレスの比率が極端に低いのだと考えられます。
一貫性がなく、矛盾した言動をとることがある
――調査を通して、どんなことが明らかになったのでしょう。
女性野宿者たちは、さまざまな場面で一貫性がなく、矛盾した言動をとることがあります。例えば、DVを受けたある女性は、いったんは施設に逃げ込むけれど、その後、夫の元に戻る。また施設で暮らす、そして夫の元へ。そういうことを繰り返します。
私の家に居候したいと言った女性はある時、衝動的に公園を飛び出し、夫と違う男性とホテルで暮らし始めます。そして毎日のように電話をしてきては、「実家に帰ろうか」「公園で夫の帰りを待とうか」「生活保護を受けようか」などと言うのです。
彼女たちの多くは自らの重要な決断をする際、他者の意見や存在を考慮し、それに大きく影響されていた。女性に求められてきた社会的な期待に沿うことは、「自分で選択できる自立した生」とは矛盾するのです。
研究者として感じたことは、この合理的には理解しがたい存在のあり方が、それまでのホームレス研究から女性が排除されてきた一因ではないかということでした。
もしかすると皆さんは、「ホームレス=なくすべきもの」と思われているかもしれません。でも、すべてのホームレスが「ホームレス生活をやめたい」と願っているわけではないのです。この研究を通して、私は「その人がその人なりに望むことを実現できるような社会になればいい」と考えるようになりました。
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