隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに

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――丸山さんがフィールドワークをされてから10年以上が経ちました。女性ホームレスの姿に変化はありましたか。

2010年代半ばには、女性の貧困が社会的に話題になりました。私の主な調査対象は中高年の女性でしたが、生活に困窮して性産業で働いている女性たちが「女性の貧困」や「女性ホームレス」としてイメージされるようになったことが、最も大きな変化だと思います。

おそらくこれからも、時が経つにつれ、女性の貧困の実態や、それに対する人々のイメージも変化していくことでしょう。

――そもそも、なぜ女性ホームレスの研究をしようと思ったのですか。

大学の卒業論文のフィールドに、釜ヶ崎(大阪市西成区の「あいりん地区」)というホームレスの人たちが多い所での炊き出しを選んで、3年間通いました。それが非常に楽しかった。

インドに1人、バックパックを背負って旅行に行ったことがあったんですが、釜ヶ崎にはそういうアジアの国に旅行しているかのような雑然とした雰囲気があって……。人間らしい行為や感情があふれていて、人々が生き生きしていると感じました。

でも、釜ヶ崎でトラブルに遭ってしまうんです。炊き出しのボランティアをしているときに知り合った男性にストーカーされて。「殺してやる」とも言われました。それまでは自分が女性であることや、ジェンダーの問題にあまり関心がなかった。だからこそ、男性ばかりの釜ヶ崎の街に楽しく通えていたんですね。

私はよそから通っていたので、そんなことがあったら釜ヶ崎に行かなければいい。でも、ときどき、街で見かけていたホームレスの女性たちは、住人のほとんどが男性という街で、きっと、私と同じような目に遭って困難を抱えているんじゃないか。人生の先輩である彼女たちがどういうふうに暮らしているのかを知りたいと思ったんです。

世帯の中にいる女性の貧困は捉えきれていない

――今の新しい研究テーマを教えてください。

「世帯に隠れた貧困」に関心があります。貧困者支援をしている、あるNPO法人に相談に訪れた人の記録を分析したときに「統計に表れない女性の困窮」に気づきました。

例えば、夫からのDV被害に遭っている妻は、統計上「家に住んでいる」「世帯収入がある」となり、貧困とは見なされません。でもDVに耐えかねて、いざ家を出ると、その妻は「住むところがない」「お金もない」となり、途端に貧困に陥る。

従来、(研究や政策は)貧困を世帯ごとに見ていたのですが、それでは、世帯の中にいる女性の貧困の実態を捉えきれないのです。

――その研究で、どんなことが明らかになるのでしょうか。

夫婦で生活していると、多くの場合、女性が家事や育児といった無償労働を担い、それに時間を投入するせいで満足な現金収入を得られません。一方、夫が現金を得られるのは、妻の無償労働に支えられているからです。

つまり、貧困という概念を考えるときには、経済的資源についてだけではなく、「時間資源」やそれに派生する「自由度」についても考慮すべきだと考えています。

今は研究の途上ですが、研究を進めていけば、貧困の捉え方や計測の方法、さらには貧困の概念を根本から問い直すことになるのではないか、と思っています。それは、困難を抱える女性たちの生きづらさを可視化させることになる。そう期待しています。

取材:宮本由貴子=フロントラインプレス(FrontlinePress)所属

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