(第14回)巨額の対外資産の極まりなく愚かな運用

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 なぜこうした魔法のようなことができるのだろうか? 一つの理由は対外資産の運用利回りが高いことだ(第2次大戦以降、アメリカは世界各地に直接投資を行い、それらが今も高い収益を生んでいる)。理由はそれだけではない。低い利回りで資本を調達できるからだ。それは、日本や中国が黒字還流を低利回り投資で行っているからだ。つまり、日本の側から見れば、資産運用の利回りをもっと改善できたはずなのだ。

日本は、世界一の対外純資産を保有しながら、“にわか成金”のような資産運用しかできていない。巨額の資産を、賢い借り手にまんまと利用されてしまっているのである。

もちろん資産運用は簡単なことではない。TBのような資産から離れればリスクに直面する。しかし、将来が不確実であるとしても、リスクを高めず、しかも平均的な収益率を高めるようなポートフォリオの構築は可能である。これはファイナンス理論の重要な内容だ。「適切なポートフォリオを作る」ための理論モデルは、半世紀も前からファイナンス理論で確立されている。ファイナンス理論は、金儲けの方法を提示することはできない。しかし、愚かな投資をしないための方法は示すことができる。日本は、このような知見をまったく使っていないのである。

【関連情報へのリンク】
財務省 本邦対外資産負債残高

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(週刊東洋経済2010年5月15日号 写真:今井康一)
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