子どもを産んだ妻を夫が散々イラつかせる理由 戦闘中の女と平和な男、だから不機嫌に見える

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それだけではない。夫の資源もすべて、自分たちに捧げてほしいと欲する。それがキッパリとできることこそが、輝かしい母性なのである。

よく「うちの夫は長男のようなもの。その長男が、一番手がかかる」という奥様がいるのだけど、はたで見ていると、実際は夫にかける資源は子どもの10分の1。それでも脳は「あげすぎ」だと思い込んでいる。

世界中の妻たちの脳に、これらの変化が多かれ少なかれ起こっている。そんな妻の傍に、恋人時代と脳のモードがなんら変わらない夫が、無邪気にのほほんと寝そべっているのだ。映画「ランボー」の戦闘ワールドに、映画「ラ・ラ・ランド」のジャズ・ピアニストが迷い込んでしまったようなもの。私にしてみたら、危なっかしくて見てられない。

母性本能は子どもに優しく夫に厳しい

妊娠して出産すれば、恋の相手は、資源を提供すべき者に変わる。子どもを無事に育て上げるためには、搾取すべき相手からは徹底して搾取する、という戦略を取ったほうが、子どもの生存可能性が上がるからだ。というわけで、子を持った妻は、夫の労力、意識(気持ち)、時間、お金のすべてを速やかに提供してほしいという本能に駆られる。子どもには徹底して優しいが、夫には厳しい。これこそが、真の母性本能である。

夫に、目から火が出るほど腹が立つのは、母性のせいだ。男が変わったわけじゃない。多くの場合、女の脳のほうが、男に対する見方を変えているのである。

『不機嫌のトリセツ』(河出書房新社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

夫婦の危機はまだまだ続く。

やがて、子どもが自分の足で歩くようになると、脳は、「次の生殖相手」を探す気満々になる。よりよい遺伝子を求めて、脳はあくなき人生の旅をしている。

直近の繁殖相手よりいい遺伝子を、脳は求めてしまう。より免疫力の高い個体を。なぜなら、それこそがシステム論上、最も有効な繁殖手段だからだ。

最初の結婚を貫けないことも、婚外の恋愛をすることも、脳の機能性から言えば、いたしかたない。「生涯、一人の伴侶と添い遂げる」なんて、脳科学上、かなり無理があるのだもの。

でもね、だからこそ、これを乗り越えて、一つのつがいを守り抜くことこそが、人間性の証なのかもしれない。そして、本能に打ち勝って、夫の傍にいる妻のなんと多いことか。多少機嫌が悪くても、許してあげてもいいのでは?

黒川 伊保子 人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家

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くろかわ いほこ / Ihoko Kurokawa

1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピューターを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『妻のトリセツ』(講談社+α新書)、『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル)、『夫婦脳』(新潮文庫)など多数。

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