慰安婦「逆転判決」で露わになった日韓の温度差 歴史問題解決へつながるとの期待も浮上するが

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一方、日本政府は首相官邸と自民党を中心に、今回の判決に対して極めて慎重な対応をとっている。

「今は菅さん次第だと思う」と、歴史問題の譲歩に対して声を上げてきた元外務官僚の東郷和彦氏は言う。「もし菅さんがこの判決をチャンスと考えるなら、動く余地がある」。そして4月の判決が控訴審で敗れた場合でも、菅首相は関係改善のため最善を尽くしたと主張することができると、東郷氏は言う。

菅首相は文政権に「深い不信感」

この件でまだ問題が解決していない「時限爆弾」1つが、戦時中の元韓国人徴用工に賠償金を支払う必要があると申し渡された日本企業の資産について、韓国の裁判所が売却を認める判決を出す可能性である。

この裁判の原告と被告は民間人と民間企業のため、より法的に解決しやすいとみられている。しかし、日本政府は、これは両国間の関係を正常化させ、こうした戦時請求権を原則として解決した1965年の協定に違反していると主張し、企業に対して譲歩しないように圧力をかけている。

日本では韓国との関係改善を支持する声があり、これは中国へのより広範な対応において戦略的に重要と見なすアメリカ当局の考えとも一致する。しかし、菅首相は安倍晋三前首相の内閣官房長官を務めた8年間の経験に基づき、個人的にあらゆる譲歩に反対しており、文政権に対する深い不信感を共有している、と川島教授は指摘する。

そのためバイデン政権は、それらの傷ついた関係の修復を助けるきっかけを待っている状態である。

「バイデン大統領は韓国と日本の間のデリケートな歴史問題を完全に理解している」と、元韓国外相の柳氏は私に話す。バイデン大統領はオバマ政権時代にこうした問題に関する調停役を務め、柳氏も重要な役割を果たした2015年の合意につながる外交的関与を開始している。しかし、その努力をもう一度行うには、まだ状況が熟していないのかもしれない。

「バイデン大統領は、韓国と日本の両方に新たなチームが設置され、譲歩の準備が整う来年まで待つつもりなのだと思う」と、柳氏は話す。「譲歩は、両国の遺産のためであり、そしてアメリカを含むすべての関係当事者の向上のためでもある」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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