慰安婦「逆転判決」で露わになった日韓の温度差 歴史問題解決へつながるとの期待も浮上するが

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戦時中の歴史問題に詳しい東京大学の川島真教授は、「自民党は今年の衆議院選挙で苦境に立たされているため、菅首相は世論に注意を払わなければならない」と指摘する。「もし菅首相が文大統領のアプローチに前向きな反応を示せば、それは首相にとっても自民党にとってもマイナス要因となるだろう」。

日米首脳会談での菅首相の露骨な発言

現在、日本と韓国はそれぞれ、バイデン政権に自分たちの側につくよう説得するために、未宣言ながらもワシントンにて激しい戦いを繰り広げている。

今回の応酬は、4月に菅首相がワシントンを訪問した際に行われた。日米のメディアの関心は中国、そして台湾の話題に集中しており、菅首相がバイデン大統領との共同記者会見やCSIS(戦略国際問題研究所)で行った韓国に関するかなり露骨な発言は、ほとんどの人が見逃していた。

菅首相は日中韓の協力関係に合意しつつも、トランプ政権が好んで使う「CVID(Complete、Verifiable、and Irreversible Denuclearization)」(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)という言葉を用いて、北朝鮮の完全な非核化に向けたコミットメントを後退させないよう、アメリカに鋭く圧力をかけている。

菅首相の発言は、バイデン政権が政策見直し後に、短距離ミサイルと既存の核兵器を残したまま北朝鮮との軍備管理様式の協定を模索する動きを阻止しようと明確に試みるものであった。菅首相は、北朝鮮が最近行った短距離弾道ミサイルの発射実験は「国連安全保障理事会の決議に対する明らかな違反」であり、日本とその地域の「平和と安全に対する脅威」であると述べている。また、「北朝鮮が保有するあらゆる範囲の弾道ミサイル」の脅威を排除するための交渉が必要だとも発言している。

5月に訪米する文大統領はニューヨークタイムズ紙のインタビューに応じ、そこで北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談が失敗した責任をドナルド・トランプ前大統領に負わせている。文大統領はバイデン大統領へ北朝鮮との直接協議をできるだけ早く再開するように訴えているが、これは文大統領自身の政治的課題の中心となる目標でもある。

ワシントンでの争いにもかかわらず、先述のソウル地方裁判所が下した元慰安婦の訴えを退ける判決は、歴史戦争に大きなプラスの影響を与える可能性がある。

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