慰安婦「逆転判決」で露わになった日韓の温度差 歴史問題解決へつながるとの期待も浮上するが

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この判決は、1月初旬に日本政府は12人の元慰安婦に賠償すべき、とした同レベルの裁判所の判決と事実上矛盾しており、国家主権に基づく訴訟免除の主張よりも国際人権の原則が優先されるという主張を支えるものとなっている。

韓国の法律専門家によると、4月に行われた別の女性団体による訴訟の判決は確立された国際法に沿ったものであり、先の判決よりも支持される可能性が高いという。ソウル大学の法学者であるホ・ソンウク氏は、「裁判所は、主権免責の問題について古典的な正統派の態度に立ち戻った。この結論は控訴審でも維持される可能性が高いだろう」と語った。

文大統領はわずかながら「軌道修正」

また、ミン・ソンチョル部長判事は判決の中で、日本と韓国の朴槿恵前保守政権が2015年に合意した、韓国人被害者女性への補償と謝罪の問題を解決するための合意にも大きく言及している。この合意では日本が出資する財団が設立され、賠償を行い、生存している被害者の3分の2がこれを謝罪の意とともに受け入れた。今回の訴訟は、この和解案を拒否した被害者を代表する団体の支援者が起こしていた。

ミン判事は、この合意の結果は「過去に彼らが受けた苦痛に比べれば十分に満足できるものではなかった」かもしれないが、既存の合意としては有効であり、「権利侵害に対する救済策」を日本側が提示したものであると認めた。

文政権は2015年の協定を一方的に破棄し、協定に反対する活動家を支援するために財団の運営を閉鎖していた。だが、日本政府からの厳しい反応を引き起こした1月の判決を受けて、文大統領はわずかに軌道修正を行った。文大統領は判決に対する失望を表明し、2015年の合意が公式な協定として有効であることを認めている。

こうした文大統領の変化が、地裁での逆転判決のお膳立てとなったようだ。ソウル大学の日本研究者である朴喆熙教授は、「文大統領の発言は……間接的には判決に影響を与えた。しかし、文政権が裁判所に何らかの指針を与えたという証拠はない」と語った。

2015年の合意を再確認したことで、韓国の法廷と文大統領は「韓日間の外交交渉の扉を開けた」と朴教授は言う。だが、かなりの障害が残されたままだ。そもそも文大統領は、2015年に設立された慰安婦財団を再開し、そこを基礎としてまだ賠償を受けていない被害者に対処していくことには消極的だ。

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