51歳女性「年収200万の正社員」までの険しい道 コロナ禍で「ピッキング」の仕事がなくなった

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非正規社員や派遣社員は、企業にとっては雇用の調整弁だ。有事が起こったときに真っ先に非正規や派遣の雇用を切って調整する。人手が足りなくなれば、膨大にある派遣会社に依頼すればいいだけ。支えてもらっているはずの労働者の生活は、企業は知ったことではないという立場になる。

家賃が収入によって変動する市営団地に住んでいる。実際に家賃1万4000円と安い。そのおかげで低賃金でもなんとか生きてこれたが、収入が4万円では家賃と光熱費ですべてなくなる。美恵さんはこのままでは餓死してしまうと恐怖にかられ、必死になって仕事を探した。

働ける場所は派遣しかなかったと話す美恵さん(編集部撮影)

「何件かのコンビニ、スーパー、喫茶店、あとファミレス、漫画喫茶に応募したけど、全部落とされました。たぶん、年齢が理由。働ける場所は本当に派遣しかなくて、派遣で仕事がないとどうにもなりません。最終的には食べ物は買えないし、交通費もなくて仕事もいけない、電気が止められて携帯の充電もできないみたいな状態に。どうにもならなくなって、ずっと折り合いが悪かった父親に、頭を下げてお金を借りました」

コロナ禍となった昨年3月~4月、どれだけ応募しても最低賃金のパートすら決まらなかった。死も想定にはいってきて就労支援センターに相談、その場で警備の仕事を薦められた。現在は大学の施設警備をしている。

「いまも低賃金で手取り1日7000円くらいだけど、正社員です。すごく苦しいけど、なんとか生きていけています。こんなことになったのは、やっぱり女だからだと思う。離婚したシングルマザーで夫に養育費を踏み倒されたら、もうどうにもならない。死ねって言われているようなもの。普通に生きてきたはずなのに、自分が本当に無価値な人間だって嫌というほど思い知らされました」

先日、世界経済フォーラムが男女格差を測るジェンダーギャップ指数が発表された。日本は156カ国中120位と低スコアだった。相変わらず国際的に男性優位社会であると認められた。彼女は女性、中年、ひとり親と複数のマイナス要因を抱える。始発に乗って出勤して精一杯働いても、普通の暮らしもできない。そんな状況がずっと続けば「死ねと言われているようなもの」と思うのは無理はない。

ある日突然、夫が帰ってこなくなった

彼女は地元の商業高校を卒業し、専門学校に進学。新卒で地元の中堅企業に入社している。入社してすぐ3歳上の同僚と社内恋愛し、21歳で結婚。寿退社して23歳のときに長男、27歳で長女が生まれた。

「33歳まで普通の家庭で収入も悪くなかった。ある日、突然夫が帰ってこなくなった。出会い系で知り合った女にハマった。いつもは19時には仕事から帰ってきたのが、帰ってこなくなった。次の日になっても帰ってこない。すぐに浮気と思いました。帰ってこない理由は、それしかないって」

夫は家にまったく帰ってこなくなった。家族は夫の親の持ち家に住んでいて、家賃はかからなかったが生活費がなくなった。小学生と幼稚園の小さな子どもが2人もいる。自分の親も、相手の両親も頼れない。途方に暮れた。

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