51歳女性「年収200万の正社員」までの険しい道 コロナ禍で「ピッキング」の仕事がなくなった

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「専業主婦だったので収入が途絶えました。突然無収入です。働いても次の月じゃないと給料がでない。うちの親に子どもたちの食費って名目で借りて、幼稚園の園長先生の家に朝一番で子どもを預けてホテルで働きました。それで一番最後17時半くらいに娘を引き取って、みたいな。一番最初に預けて、一番最後に迎えに行ってました」

ベッドメイクの就労収入は手取り12万円ほど。それに子ども手当。家賃がなかったので、なんとか生活することはできた。

「まったく帰ってこなくなった夫と離婚ってなったのは、出て行ってから3年後です。離婚届のハンコを押しにも帰ってこなかった。離婚してないから児童扶養手当はもらえないし、本当に厳しい。やっと離婚ってなったとき長女が18歳になるまで、毎月5万円の養育費を振り込むという約束を書面で交わしました。届けを役所に提出したのが6月。養育費は7月、8月は払われたけど、9月から入ってこなくなった。連絡がとれない。電話もでない、メールも返ってこない。着信拒否されて、どういうことって」

相手の親に連絡すると、2回ほど肩代わりしてくれたが、すぐに払えないと言われた。家も出て行ってほしいと言われ、現在の団地に引っ越した。

「この頃は本当に苦しくて、悔しくて泣きました。子どもたちが眠ってから泣きっぱなし。ベッドメイクの仕事では2人は育てられない。長男は親に引き取ってもらって、ずっと実家で暮らしています。奨学金で大学に行って就職しました。長女も高校からバイトしながら専門学校で保育士資格をとって家をでました。それで働いても、働いても、まだ普通の暮らしができない私が残った感じです」

「女がそんな仕事してかわいそうに」

美恵さんは結婚し、子どもを生み、朝早く起きて働きながら子どもを育てた。でも苦しい、ずっと苦しい。いったい、なにが問題だったのだろうか。

「シングルマザーに優しい社会であってほしい。いまは別れた相手から養育費を強制的にとれるようになったみたいだけど、そういうことをもっと早くしてほしかった。給料差し押さえとか、徹底的にできるようにならないと、残されたひとり親の女は生きていけないです。世間では養育費を払っている男性が偉いみたいな風潮。とんずらして逃げ得みたいな男性が多すぎる」

いまは警備会社で勤務する。警備の仕事は男社会だ。居心地が悪く、働きづらい部分もある。男性が多い職場に女性が入ると、同僚や上司にマウンティングされ、パワハラを受けがちだ。そのような風景は容易に想像がつく。

「あと男性だから女性だからって言わないでほしい。女だからダメだってめちゃ言われる。女の警備員はダメとか。同僚の男性とか通行人とか。通りすがりのおじいちゃんとかおばあちゃんに、女がそんな仕事してかわいそうにとか。男とか女とか、仕事ができていれば関係ないじゃないですか。女のくせにって言ってくる人がたくさんいて、お前はダメだ、女だからダメだって何度言われたかわからない」

正社員になった今も年収200万円を超えるか微妙だ。餓死することは回避できたが、働いても苦しい低賃金は変わらない。そして、男性たちにパワハラされる悩みが増えた。ずっと社会の底辺近い場所で働く美恵さんは「これだけ男女平等って言われているのに、現実は全然違う」と言っていた。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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