51歳女性「年収200万の正社員」までの険しい道

コロナ禍で「ピッキング」の仕事がなくなった

使い古した量産型格安ブランドの春物コートに身を包み、ボロボロのスニーカーを履いていた。お金がないことは見た目でわかった。彼女は賃金があまりに安いことで普通の暮らしができない典型的な非正規労働者だった。

「ピッキングの仕事のお給料は手取り12万円くらい。週4日とか5日やってそれくらい。交通費がでないので2、3万円は交通費です。最寄駅までバスを使って40分かかる団地に住んでいて、バスも1時間に1本とか2本しかない。始業は8時、朝4時に起きて5時12分の始発のバスに乗って通勤です。それで幕張本郷か海浜幕張駅から派遣会社が用意したバスに乗って、海沿いの倉庫に行くんです」

ピッキングとは企業の巨大な倉庫から品物を集める仕事で、企業が派遣会社に依頼して派遣労働者が従事する。労働条件は悪く、最低賃金に近い日当で社会保険は当然、交通費もでなかった。手取り12万円の賃金で交通費がでないと、生活保護の最低生活費並みの収入となる。

「時給は900円くらい。数年間続けたので最終的に1100円まで上がりました。当時は労働者派遣法が改正されてなくて交通費はでません。それで最低賃金に近い時給だったので、本当に苦しかった。ピッキングの仕事をはじめたのは43歳から。その年齢になると普通の仕事はなくて、コンビニもファミレスも断られます。派遣の仕事しかないんです」

ずっと前から40代の女性からよく聞くのは「(コンビニ、スーパーなど)パートの面接に落ちる」ということ。人によっては何十件も落ちることもあるという。40歳を一線にして最低賃金に近い仕事でも、相手から選別される立場になるようだ。

美恵さんを含む派遣社員は、長年時給に交通費が含まれる労働条件で働いた。働き方改革で正規、非正規の格差が問題視され、同一労働同一賃金が進み、昨年4月に労働者派遣法が改正された。法改正によって派遣社員にも交通費が支払われるようになった。

「派遣社員は駅からバスで倉庫に運ばれて、言われたままピッキングの仕事をします。東京ドーム何個ぶんかの倉庫をずっと歩く。一日中、端から端まで歩く。終業時間まで延々。持病もあるし、年齢的にもツライ。お昼は食堂もあるけど、みんなお金がないからスーパーのおにぎりとかカップラーメン。お湯のでるところに並んで食べます。栄養のこととか考えたことないです。そんな余裕はなかったです」

コロナ禍で仕事は「週1」に

始発のバスに乗って集合の最寄り駅へ行く、派遣会社が用意するバスに乗って海沿いの倉庫に運ばれ、延々と商品を集める単純労働。派遣労働者に暴言や罵声を浴びせる担当者も多い。ポチるだけで商品が届く便利な社会になり、わかっていたことだが、改めて現場の話を聞くとなかなか過酷だ。そして交通費込み時給900円台、日給7000円台前半の最低賃金に近い報酬が振り込まれる。

派遣労働者は派遣会社に登録、電話かインターネットサイトから仕事の予約をいれる。ECサイトはコロナによる悪影響はなかったはずだが、美恵さんは昨年2月から思うように働くことができなくなった。毎日、黙々と単純労働するだけの派遣労働者には情報も人間関係もなく、どうして働けなくなったのか彼女にはわからない。

「ずっと週5日予約を入れてました。コロナの前は希望通り働けていたけど、コロナ禍になってから入れなくなった。週5日が4日になって3日になった。最終的には週1日に。月収にすると4万円とか。生活ができないどころか、生きていけません。ほかの場所を探して仕事があっても、大網とか館山とか、とても通えないところ」

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