IT化遅い日本の欠点「紙と電子の併存」は愚策だ 「やめる」という戦略を考えないと崩壊する

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エストニアでは、行政手続の99パーセントを始めとして、銀行手続や多くの民間手続も電子化され、省庁間連携も民間のやりとりも電子で完結する。税金は税務当局のコンピュータがネットワーク経由で取得した情報から自動計算され、国民は内容チェックのみで処理終了。3カ月以上かかった還付金振込も今では数日――このような利便性が、初期段階での電子政府化への国民合意への大きな推進力になったという。

2017年の報告では、国内900以上の機関の1400種類にもおよぶ公共サービスが電子化されており、それ以前と比べ1年間で「820年分」の労働時間削減効果。エストニアの行政コストは英国の0.33%、フィンランドの3%というから驚く。

少子高齢化で人手が足りず、税負担軽減のためにも政府のスリム化が急務の日本――当然パネルディスカッションは、「なぜ日本がエストニアのようになれないか」という話題になる。多くの方は「制度の問題」とか「スピード感がない」とか言うが、結局はそれも結果であって根本原因ではないだろう。

チャレンジを恐れないマインドセット

エストニアを先端デジタル国家たらしめたのは、第4代エストニア大統領イルベス氏だといわれる。ソ連占領から両親が逃れた先のスウェーデンで誕生、アメリカに渡りプログラミングを学ぶ機会を得たという電子技術系の大統領だ。

そのイルベス氏が大統領になる前に提案したのが、13歳からプログラミングを学んだ自身の経験による「タイガー・リープ・プロジェクト」だ。教育環境の電子化と、初等中等からのコンピュータ教育義務化計画だ。

このプロジェクトが採択され、1996年にすぐ計画開始に移されたこと自体が、日本と違うエストニアのチャレンジを恐れないマインドセットの証だろう。ソ連崩壊後の祖国の将来を考え、国の発展のためにリスクを取りにいくというマインドセットを持つ人々が多かったと推測できる。

エストニアと比べ危機感のない日本のマインドセットの転換として、特に重要なのが「やめる勇気」だ。これまでの日本のデジタル化では「こんな素晴らしいことが可能になります」というような「夢」は語られるが、そのために何かを「やめる」ということは語られなかった。

30年前のまだ力のあった日本なら、「紙も電子も両方やって、社会の抵抗を最小にするように少しずつ移行」という悠長な戦略があったかもしれない。しかし、そのせっかくの余裕は使い切ってしまった。

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