IT化遅い日本の欠点「紙と電子の併存」は愚策だ 「やめる」という戦略を考えないと崩壊する

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日本の「戦略」はほとんどが「足し算」ばかりだ。何かを「やめる」という「引き算」は既得権益陣営の抵抗が大きいから、大方針で明示したくないということなのだろうか。

しかし、軍事なら常に「攻め」だけということはない。そして「引く」ときこそ、うまく戦略を考えないと戦線が崩壊する。

もはや明確な「断捨離戦略」を掲げるべきときに日本は来ている。そうすることで、初めて国全体として、紙の撤廃を目指した工程の具体化が各分野で始まる。

紙による非効率は日本の数少ない「成長」可能分野

電子化が一方的な首切りにならないように、業務が変わることに向けた再配置の計画も、電子化に対応できない高齢者のための電子化補助員とかデジタル民生委員のような新しい人員の導入も、期限が明確化し権限や責任の制度化も進む。民間企業はビジネスだから「何年までに役所で紙がなくなる」と決まれば、逆に大きなビジネスチャンスとして動き始めるだろう。電子化に向けた社会人再教育も活発化する。

ポジティブに考えれば、紙による非効率は日本に残された数少ない「成長」可能分野。現在、政府が言い出した印鑑の廃止は、まずそのスタート地点。印紙からFAX、さらには数々の対面規制まで――やめるべきことはまだまだある。

日本は特に「変えることを恐れる」傾向が強い。それは責任感が強くて不安に弱い国民性から、変えたことの心理的負担を取りたくないということなのかもしれない。しかし未来の世代のために、変えることによるリスクを引き受けても、先に進むべきときが来ているのだ。

ほんの数年前は、自動運転についても「安全性」を心配する声が聞かれた。それが多くの暴走事故――特に高齢者のアクセル踏み間違いなどのニュースを受けて、明らかに最近マインドセットが変わりつつあるのを感じる。ハンコの廃止も、ほんの数年前なら大きな抵抗があっただろう。

しかし、新型コロナの流行によりテレワークが進み、「ハンコを押すために出社させられる」などのニュースで社会の雰囲気は一気に「廃止やむなし」に変わったように見える。

不幸な出来事がないと、社会が変われないのは黒船時代からの日本の悪弊だが、変わるときは一気に変われるのも日本だ。これを機に日本のDXに対するマインドセットを整え、災い転じて……となせれば、日本にもまだ可能性はある。

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