「学校にカネを積む人」を笑えない親たちの実態 世界で過熱する教育の“不都合な真実"

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シンガポールは国際学力テストであるPISAでつねに上位にランクインし、教育移住の多い国としても知られる。また5世帯に1世帯が外国人の住み込みメイドを雇っており、共働きがしやすい国というイメージもあるのではないか。かつて日本を見習おうとしていた時期もあったシンガポールだが、今や日本が見習う国かのように見える。しかしはたしてすべてがうまくいっているのだろうか。

シンガポールに住んで4年。まだまだ新参者ではあるが、この連載では、生活者として子どもをローカル幼稚園に入れて暮らす中で、そして研究者の卵としてシンガポール人にインタビューをして回った記録から、シンガポールの景色を書いてみたいと思う。

シンガポールの親たちの証言

今後この連載で紹介していく内容を一部先出しすれば、シンガポールの親たちからは次のような事例が見られる。

証言1:第一子を妊娠した途端に、いい小学校に入れる学区に家を買ったの。私は本当に典型的なシンガポール人だから。いい小学校に行けば、いい中学に行きやすい。(30代女性)
証言2:子どもは何回かチャイルドケア(保育園)を転園しているんだけど、その理由は前のところはゆるくて勉強面が心配だったから。中国語や算数をやってくれないと困る。(30代女性)
証言3:メイドと子どもを2人きりにはしない。私は根底のところで彼女たちのことを信じていないから、頼むのは家事だけ。ましてや教育は任せられない。(60代女性)
証言4:息子は「トップスクールに行くと周りにいるのは友達じゃなくてライバル」と言っていた。息子の中学はいちばんいい中学ではないけど、それなりに名前があり、クラスで働いている親は私ともう1人くらい。(40代女性)
証言5:昔は外遊びやサッカーとかもさかんだったけど、今は、みんな点数稼ぎのためにやっている。すべてが手段化していて、合理的すぎる。(60代男性)

もちろんシンガポール人が全員、教育競争で血眼になっているわけではない。階層や人種の差もあるし、たとえば同じ中華系の大卒層の中でもかなりの多様性はある。個人の中でも、競争システムに巻き込まれていくことに対して、本音のところでは「点数だけが大事ではない」「子どもには幸せになってほしい」と疑問を覚えながらも、致し方なく子どものお尻をたたいているというケースも多い。

そこにある葛藤や試行錯誤も含め、日本への示唆になるのではないか。日本は専業主婦前提社会から徐々に共働き社会に移行をしつつあるが、そこでミドルクラスの共働き家庭がぶつかる課題は、他国と同じように「子どもの教育」になっていくのだろうか。

そこでの夫婦の役割分担とはどのようになっていくのか。そしてシンガポールに集まってくるさまざまな国籍の人たちと出会って見えてきた、世界の教育の今後とは。本連載では、北緯一度から見える親たちのリアルと世界の教育競争について、レポートしていく。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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