アメリカ経済に表れ始めた「ほころび」の深刻度 ピクテの市川眞一氏に超大国の進路を聞く

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――米中対立はむしろ厳しさを増している印象もあります。

対立は厳しい。ただ、米ソ冷戦との違いは、米ソ間には経済交流がほとんどなかったのに対し、米中は経済面での相互依存関係が強いことだ。その中でトランプ氏は通商問題しか関心がなかったが、バイデン氏はもともと外交通でもあり、中国を経済・軍事的なチャレンジャーとして懸念し、とくに台湾を深刻な問題として捉えている。

台湾に関しては2つの大きな問題がある。1つは、TSMC(台湾積体電路製造)、UMC(聯華電子)という半導体大手を持っていること。

もう1つは、国家安全保障上の重要性だ。中国が開発中の新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)は射程が1万2000キロメートルとされ、太平洋に出るとアメリカ全土が射程に入り、インド洋に出ると欧州全域が射程に入る。台湾はアメリカが対潜哨戒するうえでの要であり、香港のように台湾が中国化されることにアメリカは危機感を強めている。そのため、経済的な米中の相互依存関係を断つことはできないが、緊張感の高い状態は続くだろう。

バイデン氏が菅首相を最初の会談相手に選んだのは、東アジアで日本との連携が欠かせないからだ。東西冷戦の最前線は欧州のドイツだったが、米中覇権戦争の最前線は東アジアであり、アメリカにとって最も重要な拠点である日本列島にほかならない。

日本は米中両国とうまく折り合えるか

――日本を含めて緊張感の高い状態が続くということですね。

ただ、アメリカはたぶん2030年代を待っているのだと思う。国連の推計では、2030年代以降、中国は高齢化で人口が急激に減り始める。そこまでに中国に覇権を握らせなければ、中国は自滅すると見ている。逆に習近平氏としては、それまでに中国経済圏を形成したい。この戦いの最もホットな象徴が台湾ということだろう。

――日本の対応も問われます。

安倍政権はアメリカとは安保上の同盟国として「開かれたアジア太平洋」を推進する一方、中国との経済交流も重視し、習近平氏を国賓として日本に招こうとした。日本の対応としてはこうした現実的なものしかない。中心はアメリカだが、中国とも折り合っていくための外交力が必要だ。

その点、菅政権は基本方針が見えず、何をしようとしているのかがわかりにくい。今回の訪米でアメリカとの関係を強化するのはいいが、中国との関係が悪化して、日本企業が中国市場を失ってしまうリスクもある。中国に言うべきことを言うのは大事だが、現実問題としてどううまく折り合いをつけるか。菅首相の力量が問われる。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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