アメリカ経済に表れ始めた「ほころび」の深刻度 ピクテの市川眞一氏に超大国の進路を聞く

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――アメリカの株式市場では「空箱」と称されるSPAC(特別買収目的会社)の上場ブームが続いています。

新型コロナ禍で社会・経済が構造変化していく中、企業もリストラクチャリング(再構築)を求められており、SPACや買収ファンドを使って業界再編や企業構造の転換をしていくことにはそれなりの意義がある。

ところが、最初から運用の明確な方針がなく「空箱」状態のSPACの機能に投資家の過剰な期待がかけられ、割高なバリュエーションがつくようになっている。そうすると、次第に無理な買収をする結果、企業価値を落とすなどうまくいかなくなるケースが増えてくるだろう。

――「ファンド資本主義」は行きすぎたのでしょうか。

新型コロナ下での大量の流動性供給と低金利でリスク許容度が広がり、金利が上昇したときに正当化されないような投資が行われている可能性がかなりある。レバレッジが制御されているかは見えにくく、ある日突然破裂してしまうリスクは、今のように金融が拡張しているとそれなりにある。

そのきっかけは金利が上昇したときであり、次第にその要素が見えてきた。株価指数の上昇に期待するのは危険な状態に入っていると思う。

GAFA分割論は当然の流れ

――GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などに対する国際的デジタル課税やアメリカ国内での解体論議をどう考えますか。

ボーダーレスな取引に対してデジタル課税をかけるのは、フランスが昨年12月から始めたが、各国の調整が難しい。

問題は、デジタル化された情報がビッグデータ化されることで価値を生むようになった今日、その情報が誰のものかということだ。われわれはSNSを利用する際、個人情報を切り売りし、その対価としてサービスを利用している。その情報はGAFAが独占すべきではなく、社会の公的なものではないかという議論が高まっている。

GAFAの独占を許せば、情報が一元的に集中し、ほかの企業が排他的な圧力にさらされるため、分割の流れが出てくるのは当然だ。まして民主党政権になったので、アメリカがその方向に動くことは十分に予想される。

ただ、株価にとってマイナスかは別問題だ。「コングロマリット・ディスカウント」といわれるが、企業を分割すれば、利益相反がなくなって分割後の企業価値(時価総額の和)が高まることも多い。そういう観点も含めてこの問題を考えるべきだ。

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